2017 Fiscal Year Annual Research Report
書字障害における運動と知覚の相互作用の解明,および基礎知見の臨床応用技術の開発
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16J00325
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
板口 典弘 慶應義塾大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | スティフネス / 運動学習 / 身体特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
書字運動における重要な脳内表現を解明するため,書字運動の学習過程において,どのような運動学的な要素が変化していくのかを,心理学実験を用いて明らかにした。実験では,被験者は未知の図形(文字)を,一日につき50試行,5日間かけて学習した。学習過程における速度・速度最小点・逸脱度等の運動学的な指標の推移を学習指標として計算した。実験の結果,時間を拘束した条件では,書字運動の精度は練習にともない徐々に増していったことが確認された。一方,時間に関する制約を設けずに,なるべく速く正確に書字を練習させたグループでは,書字速度は向上していったものの,書字精度は向上していかなかった。すなわち,速度-精度のトレードオフという観点ではどちらのグループでも書字運動技能は向上しているものの,制約条件に応じた要素しか学習の影響を受けないことが明らかになった。これらの結果は,運動学習において,速度と精度は独立に制御されていることを示唆した。 また,通常の状態の“腕”とは異なった機械特性が混入する状況における運動学習についてもいくつかの新たな知見を明らかにした。具体的には,書字運動において物理的なガイドの幅が狭い状況で練習をおこなった場合には,練習後にそのガイドを外した状況ではむしろ,運動の精度が悪化してしまうことを明らかにした。これは,リハビリなどをおこなう際には非常に重要となる知見である。 デバイスを用いたスティフネス楕円体の算出については,先行研究との比較に十分耐えうる算出方法を確立し,若年健常者(大学生)におけるデータの蓄積をおこなった。この結果は未発表であるが,来年度に研究を継続することで,いくつかの新しい知見を発表できると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はまず,理論的な側面において大きな成果が見られた。具体的には,書字運動学習場面における,拘束条件が学習進度に及ぼす影響を明らかにした (Itaguchi and Fukuzawa, in press)。この研究は,書字運動において,重要だと考えられる脳内表現のパターンを示唆した点で,その障害に関する理解を深めるものになると考えられる。また,ロボットを用いた運動学習に対するデバイスそのもの,および自由度の影響も実験的に明らかにした。この知見は現在投稿準備中である。さらに本年度は,腕スティフネスの計測方法が確立された。これにより,簡易的に腕スティフネスを測定する技術の開発を次年度におこなうことができると考えられる。このような成果は,理論的な基礎をリハビリ応用に繋げる本研究プロジェクトのスコープを十分にカバーしており,プロジェクトは期待通り進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り,健常者およびその他ポピュレーションに対して腕スティフネス測定をおこない,腕特性と運動機能や学習の程度との関係を明らかにする。学会発表および論文投稿は,データがまとまり次第,随時行う。また,臨床現場において製作デバイスがどの程度受け入れ可能かどうかについて,臨床における研究協力者(東京女子医科大学・平塚共済病院・文京昭和高齢者在宅サービスセンターなど)の協力のもと検討を実施し,学会あるいは投稿論文にて報告する。
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Research Products
(5 results)