2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J00389
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
池田 晴國 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 相転移 / アルゴリズム / 第一原理計算 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は当初の予定に基づき,大小二成分系のコロイド系におけるガラス転移の研究を行った.このような系では,大小粒子のサイズ比が大きく異なる場合に大粒子と小粒子のガラス転移点が分離するという結果が,実験や数値シミュレーションによって報告されていた.本研究では,この転移点の分離を説明可能な第一原理理論を構築することを目的とした. 本年度は,平均場極限に対応する無限次元の場合の解析を行った.この極限では,自由エネルギーについての平均場近似が厳密に成立する為,ガラス転移点近傍の濃い液体に特有の,近似の煩雑さに悩まされること無く解析を進めることが可能になる.この平均場極限において,我々は先ず,既存の理論を用いてはこのガラス転移点の分離は原理的に説明され得ないことを示した.次に,この困難を克服する為に,大粒子による自由エネルギーランドスケープの中に,さらに,小粒子に対応する自由エネルギーランドスケープがあるとする,多谷構造を考慮した理論を構築し,ガラス転移点の計算を行った.この新しい理論は,大小粒子のガラス転移点の分離を矛盾無く記述することが可能で,また,理論によって得られた相図も実験や数値シミュレーションによるもと定性的に一致していた. 上記の当初予定していた結果に加えて,今回構築した多成分系のガラス転移の理論を適用することによって,最近効率的に平衡化を実現するための手段として注目を集めている,交換モンテカルロ法が,なぜ他のモンテカルロ法やランジュバン動力学法よりも効率的なのかを定性的に説明することに成功した.この結果は,特的のアルゴリズムについての深い理解を得る事が出来たという点に加えて,ガラス転移における動的拘束の役割を明らかにしたという点において重要な結果であると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
先ず,当初予定した,大小粒子の転移点の分離を計算するための理論を平均場極限において構築する,という目的は十分達成することが出来た.また,無限次元において構築した理論に,液体論の積分方程式理論を適用することによって,これを,三次元に拡張する目処も立てられた. 上記の当初の計画に加えて,今回開発した手法を用いて,最近ガラス転移点近傍の過冷却液体を平衡化する方法として注目を集めている,交換モンテカルロ法と呼ばれる手法がなぜ効率的なのかを明らかにすることに成功した.交換モンテカルロ法とは,通常のモンテカルロ法における粒子の重心位置を動かす試行に加えて,異なる種類の粒子の位置を交換する試行を行うアルゴリズムである.交換モンテカルロ法では,他のモンテカルロ法や,ランジュバン動力学法と比較して,5桁以上早く平衡化を実現出来るということが報告されている. 我々は,平均場模型であるMari-Kurchan模型に今回構築した多成分系の理論を適用し解析を行った.その結果,モンテカルロ法やランジュバン動力学法などでは,熱力学的なガラス転移点に到達する遥か手前で,動的な拘束に由来する準安定状態にトラップされることによって,緩和時間が急激に増大し,平衡化させることが不可能になってしまうことが明らかになった.一方で,交換モンテカルロ法では,動的拘束由来の準安定状態にトラップさせる事なく平衡化させる事が可能であり,これが交換モンテカルロ法が効率的であることの理由であることが分かった.ガラス転移の研究においては,モンテカルロ法や,ランジュバン動力学は,現実の動力学に近い結果を与えると考えられている.従って,上の結果は,現実の過冷却液体において観測されている遅い緩和も,背後にある熱力学相転移ではなくて,動的な拘束によるものだということを示唆しており興味深い.
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Strategy for Future Research Activity |
先ずは,無限次元において構築した多成分系のガラス転移の理論に,積分方程式理論を適用することによって三次元に拡張する.また,可能であれば,並行して数値シミュレーションを行い,理論結果と比較する. また,上記のMari-Kurchan模型(MK模型)について行った,交換モンテカルロ法の解析を三次元の模型に拡張することを目指す.厳密に言えば,MK模型は平均場模型であるため,この解析結果を直ちに,三次元の場合に適用出来るかは自明ではない.しかし,交換モンテカルロ法が,他の通常のアルゴリズムよりも効率的であることは三次元の模型においても報告されているため,熱力学的なガラス転移点に由来する遅い緩和が始まる前に動的拘束由来の遅い緩和が始まる,というシナリオ自体は三次元の場合にも普遍的に成立すると考えられる.この予想をより定量的に検証するためには,三次元のシミュレーションや実験が可能な系において,動的拘束由来のガラス転移点と熱力学由来のガラス転移点を定量的に計算していくことが不可欠であると考えている.また,実験や,シミュレーションにおいて,ガラス転移点までの距離を測るための目安として持いられる,構造エントロピー量においては,混合エントロピーの取り扱いに由来する不定性があることが知られていた.ガラス転移点を定量的に議論する為に,この不定性を取り除く事が出来る手法を提案することを目指す.可能であれば,数値シミュレーションを行い結果を理論と比較する.
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