2018 Fiscal Year Annual Research Report
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16J00548
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
信川 久実子 奈良女子大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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Keywords | 低エネルギー宇宙線 / 超新星残骸 / X線天文学 / X線CCD |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は宇宙線起源の中性鉄輝線が見つかった超新星残骸IC443とG323.7-1.0の結果を査読付き論文として発表した。IC443では、低エネルギー宇宙線がプラズマを電離することで、電離優勢プラズマ (過電離プラズマ)を作り出している可能性も見出した。中性鉄輝線で低エネルギー宇宙線を測定する研究手法は世界的にも注目されつつあり、昨年度に引き続き今年度も国際会議で招待講演を行った。また理論分野の研究者と共同研究を開始した。W28とW44について、中性鉄輝線の強度がガンマ線の結果と矛盾しないことを見出した。これは中性鉄輝線が宇宙線起源であるということを補強する成果である。並行して、2021年度打ち上げ予定の「XRISM」衛星搭載X線CCDの開発も行っている。X線CCDの重要な性能の1つは、一回の転送で電荷を失う割合を示す電荷転送非効率 (CTI)である。CTIが大きいと、ゲインやエネルギー分解能が悪くなる。「ひとみ」衛星搭載X線CCDでCTIの測定を行った経験を生かし、「XRISM」用X線CCDの試作品でCTIの評価を行った。その結果、蓄積領域と撮像領域でCTIが異なること、また、裏面処理を行うときに撮像領域のCTIが悪化することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MeV宇宙線と星間物質の衝突で放射される中性鉄輝線に着目し、超新星残骸 (SNR) で中性鉄輝線の探査を行っている。「すざく」衛星のアーカイブデータを用いて探査し、これまでに10個以上の暗いSNRで中性鉄輝線を検出し、MeV宇宙線測定に成功した。今年度はIC443とG323.7-1.0の結果を査読付き論文として発表した。 理論分野の研究者との共同研究も行った。π0崩壊起源のガンマ線と、低エネルギー宇宙線起源の中性鉄輝線の両方が見つかっているSNR W28とW44に着目し、「escape model」を用いた検討の結果、シンプルなモデルでガンマ線と中性鉄輝線の両方を説明できることがわかった。また中性鉄輝線は、SNRの年齢の20%以上の間放射されうることもわかった。つまり、SNRで中性鉄輝線が見つかる可能性は小さくないことが定量的に裏付けできた。 上記の低エネルギー宇宙線研究を発展させるため、「XRISM」搭載X線CCDの開発に携わっている。X線CCDの性能評価における重要な指標の1つは電荷転送非効率(CTI)である。Xtend用CCD素子の試作品であるmini CCDを用いてCTIの評価を行った。mini CCDでは通常のBI素子だけでなく、電極面だけを処理した素子(NT素子)も製作した。「ひとみ」SXIでは、CTIは転送速度によって変化すると考えることで失われる電荷量を説明できた。しかしmini CCDでこの仮説を当てはめると、NT素子の結果が説明できなかった。そこで、CTIが転送領域(蓄積領域、撮像領域)によって変化するモデルを新たに構築した。新モデルはNT素子とBI素子の両方のCTIを説明できた。また、NT素子に裏面処理をしてBIにする際に、撮像領域のCTIが数倍悪化していることも分かった。これはフライト用大型素子の地上較正に対して重要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度新たに中性鉄輝線が見つかったW51領域の解析を進める。この領域は超新星残骸W51Cと星形成領域を含む濃い分子雲W51Bの衝突が起きている領域である。また高いionization rate、強いガンマ線放射(ハドロン起源と考えられている)も見つかっている。まず中性鉄輝線が低エネルギー宇宙線かどうかを判定し、その上で中性鉄輝線の結果と他波長観測の関連性から、宇宙線の加速と拡散の様子を明らかにしたい。 IC443では、低エネルギー宇宙線がプラズマを電離することで、電離優勢プラズマ (過電離プラズマ)を作り出している可能性を見出した。理論分野の研究者との共同研究によって、このアイデアを定量的に検討する。 2019年度は、「XRISM」搭載X線CCDのフライト用大型素子の地上試験が始まる。mini CCDで得た知見をもとに、較正を行う。
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Research Products
(14 results)