2016 Fiscal Year Annual Research Report
独裁体制時代の政治的競争性の高さが、民主化後のもと独裁政党の存続に及ぼす影響
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16J00792
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
豊田 紳 慶應義塾大学, 法学部(三田), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 独裁体制 / 民主化研究 / メキシコ / ソ連 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、独裁体制時代に独裁政党内で競争選挙が行われていたり、あるいは独裁政党と野党間で競争選挙が行われていた場合、独裁政党の組織が強化されるために、当該独裁国家が民主化した後にも、独裁政党はその勢力を維持できるというものであった。 初年度にあたる平成28年度は、この仮説を実証する上での大前提となる理論構築作業に充てた。より具体的には、独裁政党・ソ連共産党が支配したソ連と、同じく独裁政党・制度的革命党が支配したメキシコの事例を探索的に比較検討し、党内・党間競争選挙が独裁政党の組織を強化するものかどうかを調査した。 調査の結果として明らかになったことは、本研究の理論部分の大規模な変更を迫るものであった。ソ連とメキシコを問わず、党内競争選挙および組織化されない野党との間で行われる複数政党間競争選挙は、独裁政党の組織を強化するどころか、弱体化させることが明らかになったからである。すなわち、党内予備選挙や組織化されない野党との間の競争選挙は、独裁政党内で対立する派閥が各々、独自に選挙に出馬するために、体制内部の権力闘争を激化させたのである。その結果として、ソ連とメキシコの双方の事例、独裁政党の崩壊に繋がった。 他方で、組織化された野党が存在した場合、独裁政党の組織化が強化されることが明らかになった。組織化された野党によって挑戦を受けた場合、独裁政党内部に凝集力が働き、独裁政党内部の対立する派閥は、相互に対立するにもかかわらず、一致団結して野党に対抗せざるを得ないからである。 以上から、本研究課題の仮説を以下のように修正する。すなわち、「党内競争選挙や組織化されない野党の競争選挙は独裁政党の組織を破壊するが、組織化された野党との競争選挙は独裁政党の組織を強化する」。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画と比較して若干の遅れが見られる。その理由は、前述したように、当初の研究計画は、独裁体制内で行われる党内競争選挙あるいは組織化されない野党との複数政党間競争選挙もまた、独裁政党の組織を強化すると考えていたが、研究の進展によって、本研究課題の仮説は、「党内競争選挙や組織化されない野党の競争選挙は独裁政党の組織を破壊するが、組織化された野党との競争選挙は独裁政党の組織を強化し、民主化後にもその勢力を維持する」というものに変更されたためである。 仮説が新規に練り直されたために、研究計画の立て直しが必要になった。これまでのところ、上記の新規仮説を構築する契機となったソ連・メキシコ比較論文については、2016年度の日本政治学会で発表し、フィードバックを得た上で、同内容を短縮したものを2017年度の比較政治学会年報へ投稿し、掲載が決定している。 これらの論文では、組織化された野党が存在しないにもかかわらず競争選挙を導入したソ連共産党が一夜にして崩壊した一方で、制度操作を通じて、組織化された野党が10年単位で出現したメキシコでは、競争選挙はメキシコの独裁政党の組織を強化したことを、近年になって利用可能となったメキシコ政府の情報機関の一次資料およびメキシコの野党内アーカイブの資料をも利用して論じた。なお、2000年に民主化した後、メキシコのもと独裁政党・制度的革命党は2012年の大統領選挙で勝利した。 以上をもって、主となる事例研究および理論構築作業作業はほぼ終了したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
主となる事例分析および理論構築作業は初年度で終了させたと考えられる。以下、二年目となる本年度の目標を研究面および発表面で論じる。 まず研究面では、計量分析に用いるデータセットの構築を行う予定である。具体的には、主要な独立変数となる「組織化された野党が存在するか否か」は、近年になって利用可能となったVarieties of Democracy(V-Dem)データセットを用いる。独裁体制の枠組みの下で競争選挙が行われたかは、Hyde and Marinov が構築したNELDAデータセットを用いる。最後に党内競争選挙が行われたかどうかは、各国の事例研究を検討することで、1つずつ確認していきたい。この最後の作業最後に従属変数となる独裁政党の得票率および独裁政党が政権に復帰したか否かは、既存のデータを集める。統計的に、独裁体制時代に複数政党システムが制度化されていた場合、民主化後にも独裁政党の得票率が高いが、そうではない場合には、得票率が低いという関係が見られば、仮説が検証されたことになる。 また可能ならば、マレーシアと台湾の事例研究を追加して行いたい。以上が第2年度目の研究面の目標である。 発表面の目標としては、3つを考えている。第1に、データセット構築と合わせて、アメリカ政治学会あるいはアメリカ中部政治学会へ本研究課題のプロポーザルを送る。 第2に、初年度で報告した内容を英訳し、2018年1月に開催されるアメリカ南部政治学会で報告する。第3に、2017年度年報比較政治学に発表した論文を英訳し、英語の専門ジャーナルに投稿する。
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