2017 Fiscal Year Annual Research Report
独裁体制時代の政治的競争性の高さが、民主化後のもと独裁政党の存続に及ぼす影響
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16J00792
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
豊田 紳 慶應義塾大学, 法学部(三田), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 比較政治学 / 独裁体制研究 / 政党システム / 選挙 / 暴力 / 野党 / 民主化 / メキシコ |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、主に3つの方向で研究を進めた。第1に、2017 年 5 月 20 日(土)・21 日(日)に香川大学で開催された日本選挙学会にて「独裁国家における中下級エリートの「ゲーミング」としての選挙不正」と題する研究報告を行った。この報告は、独裁国家においては「独裁者」は、統治の実務に携わる「中下級エリート」の仕事ぶりを監督する必要に迫られているが(さもなければその統治効率が低下し、大衆蜂起が発生すれば体制が転覆する)、中下級エリートの仕事ぶりを何らかの数量的指標によって監督しようとすれば、その指標がゲーミング/歪曲の対象となるために効果を持たないこと、独裁者は中下級エリートの仕事ぶりを監視するために「大衆」の参加する選挙を用いても、その選挙結果さえも中下級エリートによってゲーミングの対象となるために利用できないこと(ゲーミングとしての選挙不正)、選挙結果が中下級エリートの仕事ぶりを正確に反映するためには、野党が分権化された選挙監視装置として参加する必要があることを、世界各国およびメキシコの事例を通じて論証したものである。本報告は、日本選挙学会の学会誌『選挙研究』に投稿中である。 第2に、『日本比較政治学会年報』に「組織化された野党不在の下の競争選挙実施による支配政党の崩壊-ソ連とメキシコの比較分析」と題する論文を掲載した。 第3に、以上の研究成果およびこれまで出版してきた研究をまとめる形で、博士論文『政党独裁国家における野党とは何か:ソ連とメキシコの比較事例研究に基づいて』を執筆し、早稲田大学大学院政治学研究科に提出、今年度中に博士号を取得する見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請した際の課題であるところの民主化後のもと独裁政党の存続という問題は、申請者の予想をはるかに上回る重要な課題であることが判明したため、研究の方向性を再検討したためである。特に、申請段階では独裁政党内での党内競争選挙の実施によって、独裁体制内のエリートの仕事ぶりが改善されるとした点は、誤りだと判明した。重要なことは、独裁体制に「組織化された野党」が発生し、この組織化された野党が独裁政党に競争選挙で挑戦する際に限り、民主化後にもと独裁政党が存続すると考えている。 この点について、再度各国の事例を検討する必要が生じた。メキシコは、そうした事例であること、台湾もそうした事例であることが確認できている。 他方で問題となるのは、申請書で書いたポーランドやハンガリーである。これらの事例では、もと独裁政党(共産党)は一時的に権力を奪取したものの、独裁体制時代に政党システムが制度化されていなかったために、西側「民主主義」国家で見られるような制度化された政党システムが樹立されなかった。このような場合には、もと独裁政党は、政党の一体性を維持することができなくなり、崩壊する。 そして我々がいま見ているように、ポーランドおよびハンガリーは、権威主義国家への道を歩み始めているように見える。 従って、申請者の研究テーマは、「民主化の成否」という問題にも直接的にかかわる問題となったのである。もと独裁体制が存続し、権力を再度奪取できるかという問いは、一連の問題の媒介変数であって、本研究が追求すべき真の従属変数は、民主化の成否となったとも言える。
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Strategy for Future Research Activity |
以上のような理由から、本研究テーマは大幅な練り直しを必要としている。さしあたっての独立変数は、独裁体制時代に競争選挙が存在したか否か、競争選挙が存在したとすれば、それは組織化された野党との競争選挙であるか、組織化されない野党との競争選挙あるいは独裁政党内の党内競争選挙であるか否か、となる。さしあたっては、独裁体制時代に組織化された野党が存在したかどうかそのものは「独立変数」として、なぜそうした組織化された野党が生まれるのかという問題は置いておく。 次に媒介変数は、独裁体制時代に組織化された野党との競争選挙は、平和裏な選挙による政権交代、政党システムの制度化、民主主義の安定と因果がつらなることになる。 他方、組織化された野党との競争選挙を経なかった場合には、競争選挙は暴力その他の政治秩序の崩壊、政党システムの制度化の失敗、そして民主化の失敗あるいは民主主義の不安定につながる。 本年度の研究は、この仮説を検証するための事例研究および計量的研究となる。
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