2016 Fiscal Year Annual Research Report
油脂を利用した老化による消化管機能低下を遅延する方法の確立
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16J00821
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山本 和史 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 老化 / 脂質吸収能 / 魚油 |
Outline of Annual Research Achievements |
【目的】近年、高齢者の低栄養状態が問題視されており、我々はこの問題の要因として高齢者の消化管吸収能の低下に着目しマウスを用いて研究を行ってきた。その結果、老化により脂質吸収能が低下することをマウスで示し、老齢時からの高脂肪食摂取でこれが抑制されることも示した。しかし、高脂肪食摂取は血清や肝臓の脂質蓄積を強く誘導してしまったため、本研究ではこの悪影響を抑えつつ脂質吸収能低下を抑えるために、中脂肪食や魚油に着目し、これらの効果を検討した。 【方法】実験動物として老化促進マウスであるSAMP8マウス(3ヶ月齢、雄性)を用いた。6ヶ月齢まで通常飼育食(4%脂肪食)で飼育する群、15ヶ月齢まで通常飼育食で飼育する群、6ヶ月齢まで通常飼育食で飼育しそれ以降15ヶ月齢まで中脂肪食(8%脂肪食)で飼育する群、6ヶ月齢まで通常飼育食で飼育しそれ以降15ヶ月齢まで魚油を含む中脂肪食である中脂肪魚油食(1.6%魚油食)で飼育する群の計4群を作成し、分析を行った。 【結果】老化により脂質吸収能が低下したが、中脂肪魚油食の摂取によりこれが抑制されたことが示された。このメカニズム解析のため、脂質吸収に関わる組織(肝臓、膵臓、小腸)について様々な分析を行った結果、肝臓の老化進行や小腸における脂質吸収関連分子mRNA発現量の老化による低下、小腸の老化による絨毛退化が中脂肪魚油食の摂取で抑えられたことが示され、脂質吸収能低下抑制に関与していることが分かった。また中脂肪食は、血清や肝臓の脂質蓄積促進を誘導しないことが示され、中脂肪魚油食はこの効果に加えて肝機能低下抑制や肝臓脂質蓄積抑制効果を示した。以上より、中脂肪魚油食による老化に伴う脂質吸収能低下の抑制効果と幾つかの代謝パラメーターの改善効果が示され、この食事が老齢者にとって有益な食事となり得ることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
私は、油脂を利用した老化による消化管機能低下を遅延する方法の確立を目指して、特に脂質吸収能の点から研究を行っている。本年度は、脂質摂取による悪影響を抑えつつ老化による脂質吸収能低下を抑制するために、中脂肪食や魚油に着目して研究を行った。その結果、魚油含有中脂肪食の摂取により、老化による脂質吸収能低下を抑えることが示された。またこの食事摂取による、いくつかの代謝パラメーターに対する悪影響は見られなかった。以上より、中脂肪魚油食の老化に対する有益性が示された。 老化研究は、実験動物の飼育期間が非常に長く、またその期間の長さ故、個体間のバラツキも大きくなるため、最終的な有意差が非常に出にくい研究である。その為、苦労に対しポジティブな結果を得ることが難しい。しかし、本研究において私は、老化研究におけるこの様な問題を少しでも抑えるために、動物に十分配慮して日々の飼育活動を行った。その結果、上述した様なポジティブな結果を得ることができた。 現在私は、本年度の研究結果を原著論文としてまとめている。予想より早い段階で原著論文にまとめられるデータを得られたことは、当初の計画以上の進展であると考える。また今後は、この内容をさらに発展させた研究を行い、高齢者のQOL改善に貢献していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で有益な効果が見られた中脂肪魚油食にさらなる焦点を当てて今後は研究を行う予定である。魚油には様々な有益性が知られており、先の研究では、魚油摂取により、老化による脂質吸収能低下抑制や肝機能低下抑制、肝臓脂質蓄積抑制を示すことができた。しかし、他の報告で知られているような魚油による血清の脂質蓄積抑制や耐糖能改善といった幾つかの効果は見られなかった。また魚油は非常に酸化されやすく、老化にとっては体内の過酸化脂質蓄積につながるといった悪影響が知られている。故に今後は、食事に含まれる魚油の量や、魚油の酸化を防止するための抗酸化剤を使用した食事に焦点を当てて研究を行う。先の試験と同様に、老化による脂質吸収能を中心に研究を行い、新たな食事がこれまで以上の効果を持っているか検討する。最終的には、脂質吸収能を中心に体内全体での老化進行の抑制を目指し、高齢者にとってより有益な食事の探索を行い、QOL改善に貢献していく。
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