2016 Fiscal Year Annual Research Report
薬物代謝酵素の遺伝子解析に基づく個別化薬物療法の基盤開発-マラリア撲滅への応用-
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16J01100
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
齋藤 雄大 東北大学, 大学院薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | CYP2D6 / 遺伝子多型 / プリマキン / 抗マラリア薬 / バリアント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、薬物代謝酵素CYP2D6の遺伝子多型が抗マラリア薬プリマキンに対する代謝活性に及ぼす影響を明らかにし、遺伝的なマラリア治療効果の個人差を解明することである。平成28年度は、(1)CYP2D6によるプリマキン代謝物の解析、(2)次世代シークエンサーを用いたCYP2D6遺伝子多型解析、(3)CYP2D6遺伝子全長を挿入したミニジーン発現系の構築を行った。 (1)昆虫細胞発現CYP2D6バキュロソームを用いて、プリマキンを基質としたin vitro代謝を行った。代謝物をLC-MS/MSで解析したところ、プリマキン5-水酸化体を主代謝産物として、水酸化部位の異なる複数の代謝物が確認された。次に、CYP2D6遺伝子多型のプリマキンに対する代謝活性の変化を明らかにするため、これまでに文献等で報告されている50種類のバリアントCYP2D6をヒト胎児腎臓由来293FT細胞に発現させて、それらの機能変化を網羅的に解析中である。 (2)404人分の日本人DNAサンプルを鋳型として、各サンプルについてlong PCR法を用いたCYP2D6遺伝子全欠損型アレルの確認を行った。次に、CYP2D6は塩基配列の相同性が高い偽遺伝子を有しているため、CYP2D6遺伝子全長を特異的に増幅するPCRを行った。得られた産物の塩基配列を次世代シークエンサーにより解析した。その結果、複数の一塩基多型(SNP)が同定され、それらの結果はサンガーシークエンス法の結果とも一致した。 (3)発現ベクターの種類、宿主細胞、トランスフェクション試薬、培養条件等を検討した。その結果、野生型を挿入した発現ベクターにおいて、酵素活性測定で安定的な結果が得られると期待できる10 pmol CYP2D6/mg microsomal proteinの発現量が得られる組換えCYP2D6発現系の構築ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝子多型に由来するCYP2D6バリアントタンパク質の機能変化に関しては、プリマキンの代謝産物をLC-MS/MSを用いて解析し、5-水酸化体が主要な代謝物であることを同定した。5-水酸化プリマキンは不安定な化合物であり、自然反応でオルトキノン体へと変化することが知られている。安定的な代謝物の定量を行うために、オルトキノン体の標品合成を検討した。しかし、精製が非常に困難であり、有機系研究者の助力を得ても標品を合成することはできなかった。50種類のバリアントCYP2D6タンパク質の発現に関しては、現在も作製中であることから、平成29年度も継続して研究を進める予定である。 次世代シークエンサーによるCYP2D6遺伝子多型の解析に関しては、CYP2D6遺伝子全長の特異的増幅とトランスポソームを用いたDNAライブラリ調製により、複数のSNPを網羅的に検出することができた。また、検出されたSNPは、従来法であるサンガーシークエンス解析においても同様の結果が確認された。しかし、CYP2D6には遺伝子数が変化するcopy number variant(CNV)が存在し、CNVを有する検体ではSNPが正確に検出できないことが示唆された。 ミニジーン発現系の構築に関しては、イムノブロット法や酵素活性測定で安定的な結果が得られると期待できる10 pmol CYP2D6/mg microsomal proteinの発現量を得ることができるタンパク質発現条件を構築することを目的に研究を行った。発現ベクターの種類、宿主細胞、トランスフェクション試薬、培養条件等を検討し、野生型を挿入した発現ベクターにおける発現量は当初目標を達成した。 以上の結果より、当初の予定通りおおむね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子多型に由来するCYP2D6バリアントタンパク質の機能変化に関しては、プリマキン代謝物の合成及び精製が困難であったことから、機能変化の評価法を変更する。代謝物生成量をCYP2D6バリアント間で比較することで機能変化を評価する予定であったが、基質であるプリマキンの消費量で比較することによりCYP2D6遺伝子多型のプリマキンに対する酵素機能変化を明らかにする予定である。また、これまでは培養細胞における組換えCYPタンパク質はその発現量が低く、CO差スペクトル測定法による直接的なCYP2D6ホロタンパク質定量が困難であった。しかし今回、使用する分光光度計のカスタマイズやCO通気法の改良により、培養細胞発現したCYPでもホロタンパク質を定量する試みを行う。ただし、それでも測定が困難な場合は、当初予定通り、イムノブロット法によるホロタンパク質とアポタンパク質が混在した絶対定量を行う。 CYP2D6には遺伝子数が変化するCNVが存在し、それらを有する検体では次世代シークエンサー解析のみでSNPが正確に検出できないことが示唆された。そこで、従来のサンガーシークエンス法とCNV特異的PCR法による遺伝子多型解析により、ケニア人集団から抽出した200検体のゲノムDNAについてCYP2D6遺伝子多型解析を行う。 ミニジーン発現系に関しては、イントロンSNPによるタンパク質発現への影響を評価する陽性コントロールとして、スプライシング異常を生じるCYP2D6*41を挿入した発現ベクターを用いて、発現量が変化するか否かを精査する。なお、発現ベクターのトランスフェクション効率の補正は、βガラクトシダーゼ遺伝子を挿入した発現ベクターを共トランスフェクションして行う。
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