2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J01114
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
片山 侑駿 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 渇き / 内分泌学 / 臓性感覚 / 硬骨魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
陸上動物や海生硬骨魚は乾燥や高浸透圧環境により、水分を失う。脱水刺激で増加するアンジオテンシンⅡというホルモンは、哺乳類で渇きを、ウナギで嚥下反射を惹起する。そこで、両生魚のトビハゼに、哺乳類のような渇きを惹起する機構があるのだろうか。このことを明らかにするため、アンジオテンシンⅡをトビハゼの脳室内に投与したところ、陸から水への移動と嚥下(飲水)を促進した。アンジオテンシンⅡの脳内作用部位を検討するため、トビハゼ脳における組織学的研究を行ったところ、アンジオテンシンⅡは哺乳類の渇き中枢(第三脳室周囲器官)に相当する視索前野ではなく、嚥下中枢として知られる延髄最後野に作用し、飲水を促進することが示唆された。この結果と、トビハゼが陸上でも口の中に水を溜めるという習性に着目し、陸上滞在時における飲水量を測定したところ、アンジオテンシンⅡは口腔内にためた水の嚥下を促進した。さらに口腔内の水を実験的に除去すると、直ちに水中への移動を促進した。また、トビハゼは陸上における摂食時に口腔内の水を利用することが知られているが、摂食により口腔内の水を失わせると水への移動が促進された。これらの結果から、口やのどの乾燥が感覚神経により知覚され、渇き様行動を惹起したことが示唆された。一方で、飲水を抑制するホルモンとして知られているナトリウム利尿ペプチド(ANP)はアンジオテンシンⅡと拮抗的にはたらき、飲水を抑制した。その作用はアンジオテンシンⅡと同様に延髄最後野を介することがわかったため、ANPも直接嚥下反射を調節することにより飲水を抑制することが示唆された。以上の研究から、トビハゼにおける飲水行動制御機構のうち、ホルモンによる制御の概略が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、アンジオテンシンⅡなどのホルモンが直接視索前野に作用してトビハゼの飲水行動を惹起するという仮説を立てており、脳内のホルモン作用部位とそこからの神経回路を解析することにより、トビハゼの「渇き」の神経基盤を明らかにする予定であった。しかし、そのような視索前野における作用機序は見つからなかった。そこで、トビハゼでは口腔内の水の嚥下が先におこり、口腔内の水がなくなると水場に移動するのではないか、という新しい仮説をたてた。その仮説のもとで新たに考案した行動学的実験を行うと、トビハゼの「渇き」は口腔内の乾燥情報が求心性神経を介して前脳に伝わることによって起こることが示唆された。このような神経性の渇きは哺乳類においても長らく軽視されてきたが、近年Nature誌にその神経回路にアプローチした論文が掲載されるなど、再び注目を集めている。このようにトビハゼを用いた本研究により、陸上動物における神経性の「渇き」の重要性が明らかとなった。すなわち、脊椎動物が陸上に適応するためには、ホルモンを脳内で感知することで起こる「渇き」よりも、口腔などの末梢において乾燥を感知することで起こる「渇き」の神経機構を獲得して飲水行動を発現させることが必須であるということが示唆された。この成果は研究計画時点では想定しておらず、順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは得られた成果を数篇の論文にまとめるとともに、トビハゼの「渇き」のさらなる詳細な解析を行う予定である。具体的には、(1)口腔内の浸透圧環境を感知する神経回路、ならびに、(2)口腔内の浸透圧環境を感知する分子基盤の解析を目指す。 (1)口腔内の浸透圧環境を感知する神経回路 哺乳類においても、脳幹を中心として当該神経回路の解析がようやく進み始めている。それらの知見と、これまでトビハゼやウナギで調べられてきた延髄を中心とした飲水制御機構の知見を合わせ、脳神経や延髄から脳幹を介して情動を司る視床下部へと連絡する神経回路を調べる。解剖学的手法を用いたニューロンの投射領域の解析や、電気生理学的手法を用いた神経活動の変化の計測などを行い、「渇き」ニューロンを特定したい。 (2)口腔内の浸透圧環境を感知する分子基盤 口腔内の浸透圧環境、とくに水を感知する分子基盤は、脊椎動物においてまったく明らかになっていない。そこで手始めとして、トビハゼに異なるイオン環境の水を口に含ませたときの行動を解析することにより、水の組成変化に対する応答を調べる。その結果、特定のイオンに対する忌避行動や誘引行動が見られた際には、そのイオンの輸送に関わるチャネルに着目し、ノックダウン後の行動実験解析や、水チャネルであるアクアポリンとの相互作用について検討する。これらの実験により、口腔内の浸透圧変動を感知するために重要な受容器の実体を明らかにしたい。
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Research Products
(2 results)