2016 Fiscal Year Annual Research Report
屋久島に生息するニホンザルの社会変動を引き起こす生態学的メカニズムの解明
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16J01208
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
栗原 洋介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ニホンザル / 採食行動 / エネルギー収支 / 行動圏 / 群れサイズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、屋久島海岸域および高標高域のニホンザルを対象に地域間比較を行い、異なる社会変動を引き起こす生態学的メカニズムを解明することである。本年度は以下の 2 つの取り組みを行った。まず、海岸域で群れサイズが出産率に影響するメカニズムを検討した。海岸域で明らかになっている群れサイズによる採食行動の違いがエネルギー収支にあたえる影響を調べるために、尿中Cペプチド(体内インスリン分泌量を反映)を測定した。尿中 C ペプチド濃度は、収集済みの尿サンプルと C ペプチドキット(10-1136-01, Mercodia AB, Uppsala, Sweden)を用いて酵素免疫抗体法により定量した。また、サルの行動観察と食物の栄養データを組み合わせた、従来の評価方法でエネルギー収支を推定した。海岸域で植物サンプルを採集し、栄養成分分析を行うことで食物の栄養データを得た。C ペプチド測定結果と従来の評価方法の結果はおおむね一致していたため、C ペプチドの有用性が確認された。群れサイズによるエネルギー収支の差はなかった。この結果をまとめた論文を霊長類学の国際誌に投稿中である。次に、社会変動様式の地域間比較を行うために、個体数調査により蓄積されてきた人口学的データの整理および分析を行った。海岸域で蓄積されている行動圏データのデジタル化、および高標高域で蓄積されている行動圏データの整理・分析をすすめた。また、毎年実施されている海岸域および高標高域の個体数調査に参加し、さらなるデータ収集に貢献した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
C ペプチドの実験および植物の栄養成分分析を完了し、すでに収集していた行動データと組み合わせることで、異なるサイズの群れのエネルギー戦略を明らかにすることができた。また、予定通り、海岸域および高標高域の人口学的データの整理および分析を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、高標高域で群れサイズが出産率に影響するメカニズムを検討するために、複数の群れに GPS ロガーを装着し、活動データを収集することを計画していた。しかし、継続して行動調査が行われている 1 群を除き、想定していたよりも GPS ロガーの装着およびデータの回収が困難であることがわかった。そこで、海岸域で群れサイズが出産率に影響するメカニズムについてさらに理解を深めるために、海岸域の複数群に GPS ロガーを装着し、群間攻撃交渉がサルの活動および移動パターンにあたえる影響を調べることを次年度予定している。また、引き続き個体数調査により蓄積されてきた人口学的データの整理および分析をすすめ、社会変動様式の地域差を解明することを目指す。
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