2016 Fiscal Year Annual Research Report
希土類クラスターにおけるエネルギー移動による光機能の増幅
Project/Area Number |
16J01305
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大曲 駿 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 光化学 / クラスター / エネルギー移動 / 希土類 / 錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
I.九核TbクラスターにおけるTb間エネルギー移動とレート方程式 同一の希土類間のエネルギー移動を検討するために、レート方程式によって発光寿命・発光効率を予想する手法を学び、またMATLABを用いる技術も獲得した。実験的には九核Tb-Gd混合クラスターの発光寿命およびその温度依存性を中心に検討し、これをレート方程式で挙動を説明した。その結果、発光効率の低下を招く「Back Energy Transfer」をTb間エネルギー移動で抑制できることを解明した。 II.配位高分子におけるYb間エネルギー移動と濃度消光 希土類クラスターとの対比として、同様に希土類間エネルギー移動が進行すると考えられる配位高分子の希土類間エネルギー移動についても検討した。実験的にはYb-Gdの配位高分子の発光寿命をモニターした。その結果、希土類錯体では根本的に「消光サイト」が少なく、濃度消光は主に希土類間の振電相互作用の増強であることが分かった。 III.配位子における光化学過程の希土類依存性 希土類には不完全に占有された4f電子を有する。これは配位子におけるスピン軌道相互作用にも影響し、配位子内での光化学過程に影響を及ぼすことが報告されている。本研究ではYbの近赤外発光に着目し、GdまたはLuを混合した九核Yb-Gd/Yb-Luクラスターを合成した。その結果、Yb > Gd > Luの順でスピン軌道相互作用の影響があり、Gdを含ませた九核Yb-GdクラスターではYb1個当たりで最高の配位子→Ybエネルギー移動効率を有することが明らかとなった。これは、クラスターではスピン軌道相互作用を希土類を混合することで最適な物性を示すように調節できることを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目的を達成する上で、研究計画で予定していたレート方程式を用いた複雑系の発光寿命・発光量子収率のシミュレーション方法を習得でき、実際の系に適応した(上記の「研究実績の内容」のI.)。この内容は既に論文として報告している。また、途中で本来の計画に加えて明らかにしなければならない点が生じたが(上記の「研究実績の内容」のII.およびIII.)、それぞれ実験結果として新規の情報が得られている。特に、II.の内容は論文として審査中であり、またIII.の内容に関しては論文を作成している。よって、おおむね本研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、異なる二種類の希土類間のエネルギー移動をクラスター内で実現し、その発光メカニズムをレート方程式を用いて解明する。そのためには、希土類クラスター内に存在する水酸化物イオン(OH-)のO-H振動による失活を検討する必要が出てきた。九核希土類クラスターの場合、9個の希土類に対して10個のOH-を有する。今後は、この水酸化物イオンの同定方法や重水素に置き換える方法を模索する。また、それが発光物性(特に発光効率)にどのように影響するかを検討する。さらに、Ybのように振動の失活を受けやすい希土類とTbのように受けにくい希土類の比較も行う。
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Research Products
(7 results)