2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J01352
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
平井 悠一 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 希土類錯体 / 配位高分子 / エネルギー移動効率 / ガラス転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、発光性の希土類錯体を集積化することで高機能化する研究が盛んに行われており、熱耐久性や発光色チューニングなどの機能発現が数多く報告されている。一方で、集積状態において配位子から希土類イオンへのエネルギー移動効率が低いこと、また集積化による機能発現に関する系統的な分子設計が明らかになっていないことが課題である。そこで、本研究課題では希土類錯体の①固体状態におけるアンテナ(ヘキサフルオロセチルアセトナト: hfa)配位子の配向制御による発光の高効率化、②系統的な集積形態制御によるガラス転移機能の発現を目的として検討を行った。①ではアンテナ配位子の電荷の再分配による安定化状態(ILCT状態)に着目した。2,5-位の曲がった架橋角度を有するチオフェン誘導体で「希土類-hfa」ユニットを架橋することで、アンテナ配位子間距離を縮小した。光物性評価の結果、アンテナ配位子から希土類イオンへのエネルギー移動効率は従来の希土類配位高分子の2倍程度である80%となり、非常に高効率な発光が達成された。また高分子鎖どうしが噛み合うように配列することで分子間に緻密な水素結合が生じ、300度以上の高い熱安定性が付与されることが明らかとなった。 ②では、一般的に結晶性を有する希土類錯体を、ポリマーバインダー等を介さない高密度な発光材料として応用することを目的として、系統的なアモルファス分子材料の構築を検討した。分子間相互作用に寄与するパイ共役平面を広げずに分子体積を広げるため、ベンゼン、チオフェン、ナフタレンを中心骨格としてエチニル基を有する架橋配位子を設計した。これらを用いて合成した希土類錯体はいずれもアモルファス分子材料に特徴的なガラス転移を示し、さらに希土類イオンを混合した系においてはガラス状態で温度に依存した発光色変化を示すことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題において、登録者は集積型希土類錯体の①高効率発光の達成、および②系統的なガラス転移機能の発現に着目して検討を行なった。希土類錯体を集積化した配位高分子においては、希土類イオン周りの低振動・非対称構造に起因した、希土類イオンの直接励起による高効率発光(>90%)が報告されている。一方で、光補修部位であるアンテナ配位子を励起した際の全体での発光量子収率が比較的小さい(40%程度)ことが課題であった。集積型の希土類錯体を実用的な発光材料として利用するためには、全体での効率を高める必要があり、本研究課題ではアンテナ配位子から希土類イオンへのエネルギー移動効率を高める分子設計に着目した。アンテナ配位子間距離を縮めるための新たなチオフェン誘導体架橋配位子の導入により、登録者らは従来の2倍程度となる高いエネルギー移動効率(80%)を達成した。 また希土類錯体の集積形態制御による系統的なアモルファス分子材料の発現を目的として、当グループですでに報告しているベンゼン型配位子に加え、新たにチオフェン、およびナフタレン型架橋配位子を設計し、それぞれ希土類錯体の合成を行なった。熱物性測定の結果、いずれの錯体も架橋部位の形態に応じたガラス転移温度を示すことが明らかとなり、架橋部位の平面性・対称性に依存してガラス転移温度を制御できる可能性が示唆された。また希土類イオンを混合することで、透明なガラス状態で温度依存性の発光色変化を示すことがわかり、新規機能の創出が達成された。 また希土類イオン混合系における発光色変化について、近畿大学・京都大学との共同研究により、計算・実験の双方から検討を行なった結果、希土類イオン間のエネルギー移動が架橋配位子を介して起きていることが示された。 上記のような理由から、本研究課題は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
①希土類錯体のアンテナ配位子の配向に着目することで非常に高いエネルギー移動効率が達成されたことから、今後さらにこれを発展させるための架橋配位子の改良を行う。登録者らは現在までの研究で、チオフェン誘導体を用いた配位高分子において、配位子の双極子モーメントが大きいほど希土類イオンの直接励起による発光効率が高くなる傾向を見出している。これは誘起双極子モーメントが大きいほど希土類イオンの遷移が許容化されることに起因すると考えられる。したがって、双極子モーメントが大きく、アンテナ配位子間の距離を小さくする架橋配位子を設計することで、全体での発光量子収率をさらに高めることができると考えた。また、架橋部位の双極子モーメントが大きくなるほど配位高分子の鎖がねじれて配向し、隣接分子間との水素結合が少なくなる・フッ素原子を含むトリフルオロメチル基の向かい合う空間の割合が増えることから、この性質を利用することで分子間の立体反発を制御できると考えた。今後は、これらを達成するための架橋配位子および錯体を合成し、その光物性・熱物性・機械的特性に関する研究を行う。 ②集積型希土類錯体のガラス転移温度は、π/π、CH/πなどの分子間相互作用可能な部位の割合により変化することがこれまでの研究で明らかになっており、パイ共役平面の拡張により、高温でも安定なガラス状態を形成する発光性アモルファス分子材料の構築が期待される。また一般的にガラス転移温度は分子の対称性によっても変化することが知られている。したがって、これまでのC3対称型配位子に加えて、今後は中心骨格にビフェニルのような拡張型パイ共役平面を含むC2対称型配位子を導入することで、分子の対称性・平面性も加味したガラス転移温度のチューニングを試みる。
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[Patent(Industrial Property Rights)] 希土類錯体ポリマー2016
Inventor(s)
中西貴之, 平井悠一, 長谷川靖哉, 北川裕一, 伏見公志
Industrial Property Rights Holder
中西貴之, 平井悠一, 長谷川靖哉, 北川裕一, 伏見公志
Industrial Property Rights Type
特許
Industrial Property Number
特願2016-092667
Filing Date
2016-05-02