光格子共存磁力計を用いたフランシウム原子による電子の永久電気双極子能率探索

2017 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 16J01466
• Research Institution: Tohoku University
• Principal Investigator: 内山 愛子 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
• Project Period (FY): 2016-04-22 – 2019-03-31
• Keywords: レーザー冷却 / EDM / 共存磁力計 / 光格子 / 実験核物理

Outline of Annual Research Achievements

本研究は、フランシウム(Fr)原子を用いた電子の永久電気双極子能率(EDM)探索に重要となる、共存磁力計の実現により、次世代EDM測定技術の確立を目指している。今年度は、昨年度までに実現したルビジウム(Rb)の２種同位元素の同時磁気光学トラップ(MOT)に対してトラップ個数増強を行った上で、さらに真空度の高いチャンバー中でのトラップに成功し、同時磁場計測に向けた計測の開発を行った。
85Rbと87Rbの同時MOTの数を増加させ、磁力計の開発を進めるために、MOTに用いる光の改良を行った。これまでは、レーザー光の周波数を87Rbのリポンプ周波数に合わせ、電気光学変調器(EOM)によってサイドバンドを発生させるときに、85Rbと87Rbのトラップ周波数を交互にEOMに入力していたが、新しい手法では87Rbのトラップ周波数にレーザー光の周波数を合わせた。以前の手法と比較すると、トラップ周波数の強度には大きな差はない一方で、トラップされた原子数は新しい手法の方が多いという結果になった。この改善によりトラップ原子数を増加させることができたため、プッシュ光を用いて原子を輸送し、１つ目のチャンバーよりも２桁真空度の高い２つ目のチャンバーに再トラップすることに成功した。
また、トラップした原子を用いて同時磁場測定を実現するために、測定系の開発を開始した。2種同位元素を同時にプローブするために、新たなレーザー光源を用意し、周波数を87Rbの5S1/2, F=1→5P3/2, F=2に合わせてEOMに入力し85Rbの5S1/2, F=2→5P3/2, F=3との差に相当する周波数のRF信号をEOMに入力することで、どちらにも感度のあるプローブ光を実現した。この光を用いることで、トラップした原子のうち、85RbのF=2、87RbのF=1の状態にある原子数の時間変化を観測することに成功した。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

平成２９年度は、ルビジウム(Rb)原子の2核種光格子磁力計の実現に向けて、Rb原子の２核種磁気光学トラップ(MOT)でトラップした原子をプッシュ光により輸送し、さらに真空度の高いチャンバーで再トラップすることに成功した。これにより磁場測定法の開発に着手できるようになった。この装置開発により、トラップ個数としては十分な原子数が確保できているため、今後光格子への移行を行う。
また、磁場測定法の開発として、Rbの２核種に同時に感度のあるプローブ光を用いることで特定の準位にある原子数の時間変化を２核種に対して測定できることを確認することができた。この測定においては、原子の超微細構造の準位のうち、特定の磁気副準位を選んでいないため、磁場は測定できていないものの、この手法を発展させることで冷却原子を用いた磁場測定を行うことができると見込んでいる。
以上のように、光格子磁力計の実現のための各開発事項を２核種で達成してきており、進捗状況としてはおおむね順調に進展している。

Strategy for Future Research Activity

最終年度である平成３０年度は、ルビジウム(Rb)原子の2核種光格子磁力計により、静磁場によるゼーマンシフトと光格子によるベクトル光シフトを同時計測することを目指す。これは光格子共存磁力計を用いた次世代EDM探索実験の原理検証実験ともなっている。共存磁力計として用いる前に２核種光格子磁力計としてテスト計測を行うことで、フランシウム原子EDM測定実験で生じる、ゼーマンシフトとベクトル光シフトそれぞれの変動に起因する系統誤差の見積もりも行う。
このために、まず2核種原子を光格子に移行するための開発を行う。Rb原子の１核種に対しては光格子を実施しており、２核種の光格子への導入に向けた準備は整っている。２核種原子を同時にトラップするためには、２核種を同時に冷却できる偏光勾配冷却の開発などを進める。さらに、平成２９年度に準備を進めたプローブ光による測定方法をさらに改良し、磁気量子数を選んだ準位で観測を行うことによって実際に磁場測定を行う。また、光格子の偏光を変えることで意図的にベクトル光シフトを引き起こし、静磁場とベクトル光シフトがそれぞれ測定できることを確認する。以上の開発を進め、世界初となる光格子共存磁力計を用いたEDM探索技術の確立を目指す。

Research Products

• [Journal Article] Development of co-located 129 Xe and 131 Xe nuclear spin masers with external feedback scheme (2018)
  • Author(s): T. Sato, Y. Ichikawa, S. Kojima, C. Funayama, S. Tanaka, T. Inoue, A. Uchiyama, A. Gladkov, A. Takamine, Y. Sakamoto, Y. Ohtomo, C. Hirao, M. Chikamori, E. Hikota, T. Suzuki, M. Tsuchiya, T. Furukawa, A. Yoshimi, C. P. Bidinosti, T. Ino, H. Ueno, Y. Matsuo, T. Fukuyama, N. Yoshinaga, Y. Sakemi, and K. Asahi
  • Journal Title: Physics Letters A Volume: 382 Pages: 588～594
  • DOI: https://doi.org/10.1016/j.physleta.2017.12.003
  • Peer Reviewed / Int'l Joint Research
• [Journal Article] Measurement of the 3-α decay from the Hoyle and the broad 10 MeV states in12C (2017)
  • Author(s): M. Itoh, S. Ando, T. Aoki, H. Arikawa, S. Ezure, K. Harada, T. Hayamizu, T. Inoue, T. Ishikawa, K. Kato, H. Kawamura, Y. Sakemi, and A. Uchiyama
  • Journal Title: Journal of Physics: Conf. Series Volume: 863 Pages: 012019～012019
  • DOI: https://doi.org/10.1088/1742-6596/863/1/012019
  • Peer Reviewed / Open Access
• [Journal Article] Francium: Tool for Fundamental Symmetry Investigations (2017)
  • Author(s): U. Dammalapati, K. Harada, T. Hayamizu, K. Sakamoto, K. Kato, T. Aoki, S. Ito, T. Inoue, A. Uchiyama, H. Kawamura, M. Itoh, T. Aoki, A. Hatakeyama, and Y. Sakemi
  • Journal Title: JPS Conf. Proc. Volume: 18 Pages: 011046
  • DOI: https://doi.org/10.7566/JPSCP.18.011046
  • Peer Reviewed / Open Access
• [Journal Article] Frequency Measurement of Tellurium Lines Near Calcium (2017)
  • Author(s): U. Dammalapati, K. Harada, T. Inoue, S. Ito, H. Kawamura, K. Sakamoto, K. Tanaka, A. Uchiyama, R. Yoshioka, and Y. Sakemi
  • Journal Title: Journal of the Physical Society of Japan Volume: 86 Pages: 124301
  • DOI: https://doi.org/10.7566/JPSJ.86.124301
  • Peer Reviewed / Open Access
• [Presentation] Dual isotope transfer in a double magneto-optical trap system for cooled rubidium co-magnetometer toward search for electron electric dipole moment (2018)
  • Author(s): A. Uchiyama, K. Harada, K. Sakamoto, T. Inoue, S. Ito, M. Itoh, H. Kawamura, K. S. Tanaka, U. Dammalapati, R. Yoshioka and Y. Sakemi
  • Organizer: 10th International Workshop on Fundametal Physics Using Atoms (FPUA2018)
  • Int'l Joint Research
• [Presentation] Laser trapping of francium for the electron Electric-Dipole-Moment search (2018)
  • Author(s): K. S. Tanaka, K. Harada, M. Itoh, S. Ito, T. Inoue, H. Kawamura, A. Uchiyama, and Y. Sakemi
  • Organizer: 10th International Workshop on Fundametal Physics Using Atoms (FPUA2018)
  • Int'l Joint Research
• [Presentation] 電子の永久電気双極子能率探索に向けた冷却85Rb, 87Rb原子の同時スピン緩和時間測定 (2018)
  • Author(s): 内山愛子, 原田健一, 坂本幸祐, 伊藤沙希, 伊藤正俊, 井上壮志, 川村広和, 田中香津生, U. Dammalapati, 吉岡里紗, 青木貴稔, 畠山温, 高橋義朗, 酒見泰寛
  • Organizer: 日本物理学会第73回年次大会
• [Presentation] 表面電離を用いた放射性フランシウムのイオンビーム生成 (2018)
  • Author(s): 川村広和, 原田健一, 井上壮志, 伊藤沙希, 田中香津生, 内山愛子, 上野恭裕, 小澤直也, 山本広平, 杉森龍宇, 皆川幸穂, 酒見泰寛
  • Organizer: 日本物理学会第73回年次大会
• [Presentation] 電子EDM探索に向けたフランシウムの磁気光学トラップ (2018)
  • Author(s): 田中香津生, 吉岡里紗, U. Dammalapati, 原田健一, 伊藤正俊, 伊藤沙希, 井上壮志, 川村広和, 坂本幸祐, 内山愛子, 酒見泰寛
  • Organizer: 日本物理学会第73回年次大会
• [Presentation] 電子EDM探索に向けた冷却不安定原子生成の研究 (2017)
  • Author(s): 川村広和, 原田健一, 井上壮志, 伊藤沙希, 田中香津生, 内山愛子, 酒見泰寛
  • Organizer: 日本物理学会2017年秋季大会
• [Remarks] CYRIC測定器研究部
  • URL: https://inst.cyric.tohoku.ac.jp/