2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J01480
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
永冶 方敬 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 中央構造線(MTL) / 大陸地殻 / 野外地質調査 / EBSD / 異方性モデリング / 脱水分解実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
・三重県飯南地域中央構造線周辺に分布する地殻構成岩の野外調査を行った。また野外調査において変形程度の異なる領家花崗閃緑岩をはじめ三波川変泥質岩など岩石試料を100試料以上採取した。 ・天然の岩石試料中の結晶方位配列パターンの測定結果を用いた地震波の異方性モデリングのためのコードを開発し、琉球孤をモデルケースとし、当該地域で観測された地震波異方性を説明する含水前孤マントルの分布とそれらの領域での鉱物の配列モデリングを行った。その結果、前孤マントルが広く含水化し、その領域内の岩石の面構造が鉛直な領域から沈み込むスラブに近づくにつれ、スラブに平行な領域に変化することで地震波異方性観測結果を説明できることが明らかになった。これは前弧ウェッジマントル内の大規模対流を意味し、これまで大量の水の存在が予想されてこなかった高温ではない沈み込み帯の中にもウェッジマントル内に強い異方性が観測される沈み込み帯(例えばアリューシャン・伊豆-ボニン・トンガ-カーマディックなど)では同様に、ウェッジマントル内に大規模な水の存在と前弧マントル対流があることが示唆する。これらの成果は筆頭著者としてScientific Reports誌に掲載された。 また後方散乱電子の回折パターンを利用した岩石試料中の鉱物の結晶方位の測定法に関して、学術的に重要な新知見を提供し、筆頭著者としてJournal of Structural Geology誌に掲載された。これらの成果は実験生成物にも有用であり、脱水分解実験から生成される微細な結晶に対する分析も開始した。 また本年度三重県飯南地域中央構造線周辺から採取された岩石試料の分析にも適応できるため、来年度以降は当該地域の岩石試料のEBSD分析及び結果を用いた異方性モデリングを実施していく。 ・本年度研究は順調に進展しており研究成果を筆頭著者として4つの国内外の学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(三重県飯南郡中央構造線周辺の野外調査及び試料採取) 本研究課題では地殻内の変形構造の詳細な推量が重要な課題となっているため、異なる深さ起源を持ち、変形程度の異なる地殻構成岩石を採取することは本研究課題の遂行にあたって重要な点であったが、今回、三重県松阪市飯高町での野外調査からそれらの岩石試料の採取を実施した。領家花崗閃緑岩をはじめ三波川変泥質岩など100試料以上の岩石試料を採取している。試料の分析には、EBSD装置による微細組織の測定が必要であるが、それらの測定方法と測定結果の応用に関して以下の知見が得られた。 (SEM-EBSDによる結晶方位測定法の改良~アンチゴライトの例~と、地震波異方性モデリング) EBSDを用いた試料中の鉱物の結晶方位の正確な測定は、岩石中の鉱物の配列パターンの推定だけでなく、岩石の異方性データを用いた数値的計算の正確性にも影響を与える。そのため後方散乱電子回折パターンを利用した信頼性の高い岩石試料中の鉱物の結晶方位測定法の開発は本研究課題の遂行に重要である。本年度は、天然試料中のアンチゴライトの結晶方位測定から、岩石の面構造に平行な面でEBSD用の試料を作成した場合やMAD値が0.7以下の値を示す方位データを解析に使用した場合には、比較的信頼性の高い結果が得られることが明らかになった。 またこれら鉱物の配列データから見積もられる岩石中の異方性データを利用した地震波異方性モデリングを琉球弧をモデルケースに行った結果、琉球前孤ウェッジマントルの含水化とその領域で大規模対流の存在が明らかになった。 これらは蛇紋岩の天然及び実験試料だけでなく、本年度三重県飯南地域から採取された岩石試料の分析及びその分析結果を用いて実施される地殻内の異方性モデリングにも有用な成果であり、以降これらの成果を踏まえ採取試料の分析及び異方性モデリングを進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
・(採取試料分析-分析試料選定と、各試料の変形条件の推定) 本年度三重県飯南地域中央構造線周辺から採取した花崗岩類の変形条件を決定するため、受入研究室及び協力研究室にて微細組織分析を行う。まず、採取試料の薄片を作成し偏光顕微鏡を用いた石英及び斜長石の波動消光・亜粒界・動的再結晶粒子の観察から変形に伴う動的再結晶化の程度を判断する。この結果を基に変形の程度が異なる代表的な複数の試料を選定し、これらの試料に対してSEM-EBSDによる結晶方位マッピング及び CPO の定量分析を行う。また、結晶方位マッピングから粒径解析を行う。 分析に選定した試料に対して偏光顕微鏡による鉱物組み合わせから適応可能な地質温度圧力計を決定し、適応鉱物に対する化学組成分析をSEM-EPMAを用いて行う。これらから見積もられる温度・圧力推定結果と熱モデリングによる先行研究から得られている調査地域の温度構造を比較し妥当性を検討する。 ・(追加調査と試料採取) 分析した岩石試料から十分な温度ー圧力プロファイルが得られないことが予想される場合には、アメリカ西部の変成コアコンプレックス岩体の一つであるルビー山地から東部ハンボルトレンジまでの地域を追加調査地域として計画している。この調査では野外地質調査に加えて、地殻構成岩類の試料採取を実施する予定である。これらの野外調査、及び試料の分析には、数ヶ月アメリカ国内に滞在し活動することを予定している。 ・(実験試料のEBSD測定) 本年度得られた天然の岩石試料に対するEBSD測定に関する成果は、実験試料の測定などにも幅広く応用でき、既に脱水分解実験から生成される微細な結晶に対する分析も開始している。今後は野外調査から採取された試料に加わえ、これらの実験生成物に対する分析も合わせて実施していくことで汎用性の高い分析手法を確立していく。
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Research Products
(15 results)