2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J01480
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
永冶 方敬 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 蛇紋岩の高圧加熱実験 / 滑石片岩のEBSD測定 / アメリカ・ネバダ州の変成コアコンプレックス / 三重県飯南地域中央構造線 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究実績の概要は次の通りである。 ・天然の蛇紋岩試料を用いたブルース石とアンチゴライトの高圧加熱分解実験を実施し、天然の岩石でも見られる蛇紋石鉱物とブルース石の分解によるかんらん石の生成に成功した。またこれら実験試料に対してEPMAによる鉱物化学分析とEBSDによる結晶方位分析を実施した。これらの分析は昨年度報告した鉱物結晶方位の測定法を利用した成果でもある。 ・昨年度実施の四国三波川帯及び関東三波川帯及びアメリカ・カリフォルニア州での野外調査で得られた採取試料の分析を行い、構成鉱物とそれらの配列を評価した。中でもかつての沈み込み帯プレート境界で形成されたと考えられる滑石片岩のEBSD測定からスラブーマントル境界での滑石の結晶方位配列測定に成功した。 ・追加調査地域であったアメリカ・ネバダ州イーストハンボルトレンジ及びルビー山地の野外地質調査と試料採取を実施した。またそれらの野外調査記録及び平成28年度から実施している三重県飯南地域中央構造線周辺の野外調査記録をまとめた。 ・イーストハンボルトレンジ及びルビー山地での採取試料に関しては岩石試料を定方位試料として採取し、薄片試料作成が完了し、電子顕微鏡観察を含め分析を開始している。中でもシークレットパスで採取された岩石試料は、大陸地殻内での高歪領域を保存していると思われる岩石組織を示す岩石試料が多く見られ、本研究課題に適した試料が採取できた。 研究は順調に進み本年度得られた研究成果を筆頭著者として国内外の学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
天然の蛇紋岩試料を用いた高圧加熱実験では、アンチゴライトとブルース石の分解反応によるかんらん石の生成に成功した。この実験では、実験試料の作成方法・観察方法を十分検討し、実験試料の反応前後の直接的な比較を行うことができた。またこの実験は、沈み込み帯ウェッジマントル領域でのブルース石と、蛇紋石鉱物であるアンチゴライトの脱水分解が予想される温度・圧力条件と同様の温度・圧力条件で実施しており、実際の天然試料で見られる同様の反応によるかんらん石との比較を行い、反応前後の鉱物化学組成や結晶方位関係において整合的な観察、測定結果が得られている。 四国三波川帯及び関東三波川帯釜伏山周辺の野外調査、及びアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ及びジェードコーブ周辺での野外地質調査からの採取試料の薄片作成と、鉱物化学組成分析による構成鉱物の同定を実施した上で、これらの結晶方位測定を行った。特に上部マントル物質のSiO2流体との交代作用によって形成される低摩擦特性を示す滑石片岩中の鉱物結晶方位測定に成功し、片岩中の滑石の結晶軸定向配列の取得に成功した。 本研究課題では地殻内の変形構造の詳細な推量が重要な課題となっているため、異なる深さ起源を持ち、変形程度の異なる地殻構成岩石を採取することは本研究課題の遂行にあたって重要な点であったが、昨年度の三重県松阪市飯高町での野外調査に続き、追加調査地域であったアメリカ・ネバダ州イーストハンボルトレンジ及びルビー山地での野外地質調査と岩石試料の採取を実施した。昨年度からの採取岩石試料は計130試料以上になり今後順次薄片試料作成と試料分析を実施していく。現在までに野外調査記録をまとめ、イーストハンボルトレンジでの採取試料に関しては薄片作成が完了しており、室内分析を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
天然の蛇紋岩試料を用いた高圧加熱実験では、アンチゴライトとブルース石の分解反応によるかんらん石の生成に成功したが、今後、より長い実験時間やより高温域での反応実験から反応の進行程度の比較と、進行の度合いによる反応組織の変化を天然試料と比較を行うことで、実際の沈み込み帯ウェッジマントルにおける岩石組織の特徴とそれによる化学的・物理的特性の変化を評価していく。 国内外で採取された複数の岩体から採取された滑石片岩中の滑石は岩石試料中の他構成鉱物の伸長方向と整合的な結晶軸定向配列を示すが、実際の沈み込み帯プレートウェッジマントルにおいてその規模が及ぼす化学的・物理的影響に関しては不明な点も多い。そのため、今後は野外調査による岩体規模とそれらの組織観察から滑石や他構成鉱物の存在量と配列強度の空間的な変化について調査し、ウェッジマントルの岩石強度への影響を評価する。 これらの評価は上部マントルの強度推定において重要であり、今後これらの成果を踏まえリソスウェアでの岩石強度推定を実施していく。 変成コアコンプレックスであり、大陸地殻構成岩類の地質構造の調査と試料採取を目的とした今回のアメリカ・ネバダ州イーストハンボルトレンジ及びルビー山地の調査から主にエンジェルレイク、シークレットパス及びラモイルキャニオンから岩石試料の採取を行った。特に、シークレットパスで採取された岩石試料は、大陸地殻内での高歪領域を保存していると思われる岩石組織を示す岩石試料が多く見られ、本研究課題に適した試料が採取できたため、今後南カリフォルニア大学でのEBSDを始めとする分析装置を使用し、詳細な変形組織の観察と構成鉱物の変形メカニズムと変形時の条件を推定していく。 来年度、本年度の成果の国際誌への投稿を順次行うと同時に、引き続き野外調査と、採取試料の分析を順次実施していく予定である。
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Research Products
(13 results)