2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J01498
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
國川 慶太 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 平均曲率流 |
Outline of Annual Research Achievements |
平均曲率流の研究においては、時間大域解の存在と収束を示すことが基本的な課題である。しかし一般には平均曲率流は特異点を持つため、時間大域解は必ずしも存在するとは限らない。したがって「どのような場合に時間大域解が存在し、収束するか」と「特異点が現れる場合、それはどのようになっているか」という問題を考える必要がある。特に余次元が高い場合、これらに関して未解明のことが多い。
そこで平成28年度は上述の問題に取り組み、2つの結果を得た。1つ目は「特異点の非存在」に関わるものである。余次元が高い平均曲率流の中でも、特にラグランジュ平均曲率流と呼ばれるクラスに現れる特異点は(ある特殊な場合において)II型に限ることが知られている。このII型の特異点をスケール変換し、モデル化すると永遠解と呼ばれる特殊な解が現れる。したがって、ラグランジュ平均曲率流の特異点を調べる上では、永遠解を調べることが重要である。1つ目の研究成果は次の通りである:(ある特殊な場合において)リッチ曲率が非負であるようなラグランジュ平均曲率流の永遠解は自明なものしか存在しない。
2つ目の研究は梶ケ谷徹氏との共同研究となった。こちらは上述の「時間大域解の存在と収束」に関わっている。平均曲率流は部分多様体の体積を減らす変形を与えるため、極小部分多様体に十分近い部分多様体は、平均曲率流により極小部分多様体に収束するであろうと予想される。Haozhao Liはケーラー・アインシュタイン多様体内のラグランジュ部分多様体においてこれが正しいことを示している。我々はLiの結果をファノ多様体の場合に拡張した:ファノ多様体内の重み付き極小ラグランジュ部分多様体に十分近い部分多様体は、重み付き平均曲率流により重み付き極小ラグランジュ部分多様体に収束する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画どおり、余次元の高い平均曲率流がどのような場合に時間大域解を持ち、極小部分多様体に収束するかという研究を行い、時間大域解の存在と収束に関する研究成果を出すことができた。この研究はHaozhao Liがケーラー・アインシュタイン多様体内のラグランジュ平均曲率流について示した収束定理を、ファノ多様体の場合に拡張したものである。ただし、ファノ多様体内でのラグランジュ平均曲率流とは「重み付き」のラグランジュ平均曲率流であり、正確には平均曲率流ではない。このため、通常の平均曲率流に関して本質的に新しい結果を得たというわけではなく、「重み付き」の設定でLiの結果を再現したものとなっている。この意味で、余次元の高い平均曲率流(特にラグランジュ平均曲率流)の時間大域解の存在や収束を調べる課題はまだ進展途中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に行った「永遠解の非存在」と「ファノ多様体内の重み付きラグランジュ平均曲率流の収束」の研究から、以下の問題点が浮かび上がってくる。
まず永遠解の非存在に関しては「リッチ曲率が非負」という条件を仮定していたが、実はこの条件を仮定してしまうのは好ましくない。理由は、一般には平均曲率流でリッチ曲率の非負性が保たれるとは限らないからである。また、ユークリッド空間内ではリッチ曲率が(真に)正であるラグランジュ部分多様体は永遠解に限らず、そもそも存在し得ないことが知られている。したがって、リッチ曲率に関する不自然な仮定を外すことは1つの課題である。 また、永遠解の特別なものとしてトランスレーティングソリトンと呼ばれる解が知られているが、ラグランジュ平均曲率流の場合、永遠解がトランスレーティングソリトンになるための十分条件は知られていない。トランスレーティングソリトンに関してはすでに知られていることが多く、もしこの十分条件を見つけることができれば難しい永遠解の話を比較的簡単なトランスレーティングソリトンの話に落とし込むことができるため重要である。
次に余次元の高い平均曲率流の収束に関する問題について述べる。Haozhao Li及び、我々が行った収束定理では、初期部分多様体が極小部分多様体に「十分近い」という仮定が必要であった。しかしこの「十分近い」という条件は幾何学的にわかりやすい収束条件とは言えない。またそのように仮定してしまうのも強すぎる。そこで今後の研究方針としては、平均曲率流が極小部分多様体に収束するための条件を曲率の情報を使って具体的に記述するということを考えている。例えば、複素射影空間内のラグランジュ平均曲率流の収束について具体的に考察を始めていくつもりである。
|