2017 Fiscal Year Annual Research Report
パルス中性子ビームとガス検出器を用いた中性子ベータ崩壊の精密測定
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16J01507
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長倉 直樹 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 中性子寿命 / J-PARC / Time Projection Chamber / 空間電荷効果 / タンデム加速器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主にJ-PARCのパルス中性子ビームを用いた中性子寿命の精密測定実験に関連した研究に取り組み、大別して以下2点の実績が得られた。 2014年から2016年に取得した中性子寿命実験の物理データの解析を主導し、2017年9月の日本物理学会で本実験最初の結果として発表した。現在は2017年および2018年に取得したデータの解析を主導して行っている。並行して、将来的に目標精度である0.1%を実現するために、系統誤差を抑える新しい解析手法の開発を行った。具体的には信号事象と背景事象を分離する際に多変量解析の手法を用いて分離効率を向上させたことと、複数のイベントが短い時間差で記録されてしまうパイルアップ事象を識別して排除する解析手法を提案した。 中性子寿命測定実験で使用しているワイヤーチェンバーにおいて、局所的に多量のイオンがアノードワイヤー近傍に発生し、電場が歪むことで増幅率が低下する現象 (空間電荷効果)が観測されている。この現象を単純なパラメータを使ってモデル化しエネルギー較正精度を向上させる目的で、小型のワイチャーチェンバーを製作し、筑波大学加速器を用いて陽子ビームの照射実験を行った。この結果、増幅率低下量をイオン密度の関数として簡単に記述するモデルを構築することができた。結果をProgress of Theoretical and Experimental Physicsに筆頭著書として論文投稿し、2018年1月に採択が決定された。その後、チェンバーの動作ガスやビーム種の補正を組み込んだ汎用的なモデル構築を目指し、チェンバーを大きくするなど実験のアップグレー ドの準備を進め、装置のセットアップがおおよそ完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の実績として、2016年までの物理データを用いた結果をまとめ、新たな系統誤差の考察や解析プログラムのクロスチェックを経て、本中性子寿命実験として最初の結果を日本物理学会で発表することができた。結果を論文として投稿するには至っていないが重要な進展と思われる。2017年、2018年に取得してデータ解析も進められているが、解析データに対してスケールしにくい解析システムとなっており、結果のとりまとめは遅れている。 また、筑波大学での加速器ビーム照射試験においては、2017年4月にビーム照射実験を行うことができた。取得したデータを解析して陽子ビームに対するワイヤーチェンバーの増幅率低下現象をワイヤー近傍のイオン密度というシンプルなパラメータで記述できることを示した点は大きな進展である。また、結果を論文投稿し、2018年1月に採択が決定されている。加えて、より汎用的なモデル構築を目指して、ガス種やイオンビーム種を変えた測定が可能なセットアップの構築がおおよそ完了し、来年度中にさらなる追加測定を行って更新した結果を発表できる見込みとなっている点も評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、J-PARCのパルス中性子ビームを用いた中性子寿命の精密測定実験に取り組む。2014年から2018年まで取得した物理データ(統計誤差として0.5%に相当)の解析を主導して行う。本実験は2017年9月に日本物理学会で最初の結果を発表しているが、この段階では統計誤差が大きかったこともあり、系統誤差の評価が十分吟味されていない項目がいくつか存在していた。そこで、各種系統誤差の評価方法を再考し、現在の解析で大きな系統誤差をつけているエネルギーキャリブレーションの不定性、および1つの事象に複数の物理事象が含まれている事象(パイルアップ事象)の取り扱いについて系統誤差の評価方法をアップデートし、両者の系統誤差をそれぞれ0.3%以内に抑える解析手法を開発する。 これらの解析結果および取得したデータを全て統合し、最終的な中性子寿命の測定結果の値を2018年8月までに0.5%の精度で導出することを目指す。また、ビーム輸送系や検出器、プリアンプなどのアップグレードの計画が進行中であり、それらに基づき将来的に目標精度である0.1%での中性子寿命の導出を実現するための戦略を提案する。
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