2016 Fiscal Year Annual Research Report
温位座標に基づく寒気流出メカニズムの将来変化の解明
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16J01722
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
菅野 湧貴 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 寒気流出 / 等温位面解析 / 波動平均流相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
寒気流出メカニズムの将来変化の基礎として、過去1960年以降における寒気の量と寒気流出量の変化、北米地域における寒気流出の特徴の研究、温位座標に基づく大気大循環の3次元的な診断手法の開発を行った。 冬季北半球、冬季南半球における寒気の量、極域から中緯度への寒気の流出量の過去50年間の長期変化を複数の大気再解析データを用いて明らかにした。冬季北半球では寒気の量は過去1959年から現在までと1980年から現在までの2つの期間で統計的に有意に減少している。一方、寒気の流出量は年々変動が大きいために変化は不確実であった。冬季南半球では、寒気の量と寒気流量の変化は再解析データ間のばらつきが大きい。 北米における寒気流出の年々変動の様子を北米地域に流れる寒気質量フラックスのEOF解析より明らかにした。EOF第1モードは北米寒気流の気候学的な位置での強弱を表しており、第2モードは北米寒気流の位置の東西の変化を表す。EOF第1モードの主成分はTropical North Hemisphereパターンと正の相関があり、第2モードは北極振動・北大西洋振動と正の相関を持つ。また、第1モードは成層圏極渦の変化とも関係していることが分かった。EOF第1モード正と第2モード負の時にはアメリカ北部に寒気が流れこみ、寒波をもたらす。 温位座標に基づく大気大循環の3次元的な診断手法を開発し、中高緯度における子午面循環の経度依存性を明らかにした。温位座標での質量重み付き時間平均南北風を、質量重みなし時間平均とボーラス速度と呼ばれる波動による質量輸送速度に分けることで、冬季北半球では子午面循環が北大西洋と北太平洋のストームトラックに局在していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究は順調に進捗している。北米における寒気流出の特徴について詳細な解析を進め、温位座標に基づく大気大循環は運動量収支解析を行った。 北米における寒気流出の年々変動についてさらに詳細な解析を進めている。EOF解析で得られたモードの物理的な解釈について、回転EOF解析やクラスター解析を用いて検証を進めている。 温位座標での大気大循環の3次元的な診断法について、運動量収支の開発を行った。冬季北半球と冬季南半球において質量重みなし時間平均南北風は停滞性超長波の作る気圧傾度力と、ボーラス速度は非定常な傾圧不安定波動が作る気圧傾度力によって駆動されていることが分かった。対流圏の上層では、非定常速度成分の相関で表されるレイノルズ応力も寄与していることが分かった。今後は気候値だけでなく異常気象年の解析等も進めていく。また、波動伝播についての診断法の開発を行う必要がある。 寒気流出によって励起される大気波動の鉛直伝播についての解析を進めた。東西平均した2次元断面では、寒気流出によってEliassen-Palmフラックスの鉛直成分が励起されそれが上方へ伝播していく様子を明瞭に示すことが出来た。また、対流圏上部と成層圏では寒気流出後に大気波動が収束することで励起される極向き流の強化を示すことが出来た。経度方向への波動の伝播について明らかにすることが今後必要である。 来年度の研究で実施する寒気流出の将来変化の解析に向けて、CMIP5の中からモデル面の6時間間隔データを使用することとした。温位座標への変換には鉛直解像度の高いデータが必要であり、その観点から使用するモデルを3つ選んだ。データのダウンロードと解析のための処理を実行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主テーマは寒気流出メカニズムの将来変化である。冬季北半球における寒気の量と寒気流出量が将来気候においてどのように変化するのかを定量的に明らかにすることが次年度の課題である。より信頼性の高い情報を提供するために、複数の気候モデルデータを解析し、複数の将来変化シナリオを用いることで、温暖化緩和策の有効性を明らかにする。特に、寒気流出の変化は熱力学的な変化と力学場の変化の両方が寄与するので、その詳細を明らかにする必要がある。全球スケールでの変化と領域別の変化をついての解析を実施する。また、極端な寒波事例の頻度が将来どのように変化するかを明らかにする。 北米の寒気流出の年々変動の特徴を把握できたので、次に実施するのは北米における個々の寒気流出イベントの特徴を明らかにすることである。北米における寒気流出経路は複数存在することが考えられる。クラスター解析を用いてその経路を明らかにし、寒気がどこから来るのか、そしてどこで消滅するのかを経路ごとに明らかにする。また、大西洋のメキシコ湾流が北米に流れ出た寒気の主な消滅域となっており、そこでの大気海洋相互作用についても考察を進める。 寒気流出に駆動される大気波動の東西方向の伝播特性について調べる。東アジア域における寒気流出時には対流圏上層を西から波動が伝播してくるので、西から伝播してくる波動と寒気流出によってできる対流圏下層から鉛直に伝わる波動の2つの違いを意識する必要がある。それぞれの波動がどのような経路で伝播しているのかを明らかにし、東アジア地域における寒気流出の理解を深めていく。
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Research Products
(6 results)