2016 Fiscal Year Annual Research Report
化学反応下での両親媒性分子集合体の形態変化 マルチスケールにわたる理解
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16J01728
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中川 恒 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / ソフトマター / 生体膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
化学反応によって引き起こされる両親媒性分子集合体の形態変化の中には、反応生成物の混合に伴う物性変化により引き起こされるものがある。今年度は、こうした化学反応過程において見られるヘテロな二重膜の物性を数値シミュレーションによって調べるための手法開発に取り組んだ。具体的には分子動力学(MD)シミュレーションから応力分布を計算する手法開発を行った。 申請者は上記の手法に関する先行研究を調べ、その中で既存の手法の問題点に気づき、その問題点の解決に向けて取り組んだ。具体的な問題点としては 1.多体力相互作用が含まれる系において運動量と角運動量保存則を満たす応力テンソルを計算するには、多体力を二体力の和に分解する必要がある。しかし、この多体力を二体力へ分解するやり方は一通りではなく無数にある。さらに、分解のやり方に応じて得られる応力分布は変化する。 2.表面張力の二次モーメントとして計算できるガウス弾性率は分解の方式に伴って変化する。 の二点である。これらの問題点の解決を行うために、Stress Distribution Magnitude(SDM)と言われる量を導入し、運動量、角運動量保存則以外に「SDMの値が最小である」というもう一つの要請を課すことで応力分布を一意に決定することを試みた。本年度の研究では上記二点の問題を解決するには至っていない。しかしながら、二重膜のMDシミュレーションが始まって以来30年もの間二重膜の応力分布は計算され続けてきたが、未だに正しい応力分布を一意に得る手段が開発されていない事実を指摘できたその意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画目的は化学反応過程で見られるヘテロな二重膜の物性(曲げ弾性率やガウス弾性率など)を、全原子モデルによる分子動力学シミュレーションから計算し、その結果から化学反応下で見られる脂質二重膜の形態変化を調べることにあった。しかしながら、その物性を調べるために用いられていた既存の計算手法に誤りがあることを申請者が指摘し、本年度はその解決に尽力したため当初の研究計画から遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
マルチスケールに渡って化学反応下での両親媒性分子集合体の形態変化を理解するために、全原子モデルから連続体としての脂質二重膜の物性を計算することは必要不可欠である。そのため、今後も分子動力学シミュレーションから応力分布を計算する手法開発を継続する。現在の手法の問題点は多体力の中心力への分解方法が無数に存在することにあるが、これを克服するためにはSDM以外の任意性を取り除くための判断基準を導入する必要がある。まずこの判断基準として適切なものを考案し、計算される応力の非一意性を取り除くことを目標とする。その後、その手法を用いヘテロな二重膜の物性を計算し、化学反応下の形態変化の解析に移ることとする。
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Research Products
(6 results)