2016 Fiscal Year Annual Research Report
暗黒物質揺らぎの重力非線形成長の研究と宇宙大規模構造の解明
Project/Area Number |
16J01773
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
羽田 龍一郎 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 宇宙大規模構造 / 重力レンズ / Ia型超新星 / ニュートリノ / バリオン音響振動 / 密度分布の再構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
絶対的な明るさが一定であるIa型超新星は距離指標として知られているが、光が途中の物質分布の凸凹、すなわち宇宙大規模構造を通過してくる際に重力レンズの効果を受けるため、実際よりも明るく見えたり暗く見えたりする。本研究では、近い将来行われる超新星の大規模サーベイを念頭において、観測から得られるIa型超新星の明るさの分布から、物質の分布やその原因となる暗黒物質、暗黒エネルギー、ニュートリノの性質を明らかにすることが目的である。今年度は特にニュートリノの質量の制限に注目した。成果としては、次世代の観測プロジェクト(LSST・WFIRST等)においてどの程度の制限が可能か推定した。また、Ia型超新星の絶対光度の不確定性や観測バイアスなども考慮し、現在得られている最も厳しい制限を超えるためには超新星までの距離とその個数がどの程度要求されるか、理論的に予想した。これは今までにないアプローチによってニュートリノの質量を制限できるという点で非常に意義があるといえる。
また、今年度の8月からハーバード・スミソニアン天体物理学センターに滞在し、バリオン音響振動と呼ばれる別の距離指標を用いることでダークエネルギーなどの宇宙論パラメータを正確に測定することを目的とした研究を行っている。2020年代に計画されている大規模銀河サーベイでは観測領域や天体数が格段に増加するため、それに合わせてデータの解析精度や計算速度を改善する必要がある。その中でも特に、観測によって得られた非線形性を含んだダークマターの密度分布から、理論的に取り扱い易い宇宙初期の線形揺らぎの密度分布を再構築する研究に取り掛かった。これまでの成果としては、フーリエ変換を用いて揺らぎの二点相関を高速で計算する新しい手法の中に密度分布の再構築を行う行程を加え、N体シミュレーションによって得られたデータに適用したところ、期待通りの改善が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ia型超新星の見かけの明るさの分布を用いて、次世代の超新星の観測プロジェクトからニュートリノ質量をどの程度制限できるか予想するという、今年度の目標の一つを達成することができた。また、この結果は論文としてまとめ、査読雑誌に掲載されている。
また、アメリカの研究機関であるハーバード・スミソニアン天体物理学センターに滞在し、銀河サーベイから得られる物質分布を再構築するというテーマに着手した。当初の計画である、観測データの理論的な解釈や解析手法を学ぶだけでなく、それらを踏まえて将来の銀河サーベイプロジェクトに向けた新しい研究に実際に取り組み始めている。以上のことから、宇宙大規模構造の解明に向けた本研究は、順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
問題点としては、明るさのばらつきが超新星から観測者までの間の宇宙の構造の影響が積分されたものであるため、局所的な宇宙の構造については限られた情報しか得ることができないということが挙げられる。そこで、観測された大量の超新星を格子状に配置するという新たな方法により行列を用いて解析を行うことで、局所的な構造について新たな情報が得られるかどうか検討する。また、近年検出が可能になった重力波は、電磁波と同様に大規模構造による重力レンズの影響を受けるため、重力波を発するブラックホール連星系などをIa型超新星の代わりに用いることにより、理論的な枠組みは同じであるが全く独立した方法によって大規模構造にアプローチできる期待がある。以上のことを念頭に置き、次年度以降も引き続きこの問題について考えていく。
また、物質分布の再構築の研究については、従来の方法では観測から得られた密度分布から各銀河の移動距離を1次のオーダーまで計算し、その分だけ元に戻すという方法を用いていた。それを踏まえて、2次のオーダーからの寄与も含め、また上記の行程を何度も繰り返すことで最適な解を探すという方法を新たに用いることで、より正確な物質分布の再構築を目指していく。
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Research Products
(2 results)