2016 Fiscal Year Annual Research Report
Unruh効果を用いた曲がった時空での場の量子論の検証
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16J01780
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大下 翔誉 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 場の量子論の検証 / 量子宇宙論 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 加速度運動する荷電粒子による量子論的放射に関する研究 平坦な時空であるMinkowski時空で真空として振舞う量子場は、加速度系においては、その量子場は熱的に励起された状態で観測されると考えられている(Unruh効果)。電子が加速度運動した場合には、電磁場が熱的に励起され、電子と電磁場の相互作用が電子の軌道に熱的な摂動を与える。したがって電子は、加速度運動による制動放射とは別に、Unruh効果を起源とする量子的放射を出すことが予想される。電荷を持つ点粒子が電磁場と相互作用している系において、電子がどの程度のエネルギーで放射するのかを理論的に調べ、Unruh効果由来の放射は主に負のエネルギーを持つことが明らかとなった。量子場の理論では、負のエネルギー密度が局所的に生じ得ることは既に知られており、カシミール効果として実際に観測されている。Unruh効果を起源とする電子の量子的放射が理論通りに観測されれば、Unruh効果の初の観測となり得る。 2. Hawking-Moss転移の解釈に関する研究 Hawking-Moss(HM)転移とは、あるエネルギー密度で一様に満たされた宇宙が、より大きなエネルギー密度を持つ宇宙へと転移する解として知られている。転移前と後の系が準静的であると仮定した場合、物質場(正のエネルギー)と重力場(負のエネルギー)双方の寄与により、全体でエネルギーはゼロとなることを指摘した。重力効果(宇宙膨張)で現れる地平面によって生じるエントロピーのみが、系の自由エネルギーに寄与し、HM転移率は単にこのエントロピーから計算される微視的状態数の変化分として導出できることを示した。この主張によれば、HM転移は指数関数的に強く抑制されていることが知られているが、これはHM転移が宇宙のエントロピーを減少させるような転移であるためであると理解できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初計画していた場の量子論の検証に関する研究のみならず、その知識を応用させ、量子宇宙論の分野に関する研究にまで着手し、成果を得ることができた。 場の量子論の検証を目的としたUnruh放射の研究は、その放射の起源が量子もつれである可能性を指摘し、Unruh放射の観測に至る上で必要となる知見を得ることができた。これは、当初の想定を上回る業績である。 また、宇宙の相転移を重力のエントロピーと結びつけて解釈する必要があることを示し、量子宇宙論においても重要な貢献を果たすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、近年観測されたブラックホール連星からの重力波から、極限重力における場の理論の検証について研究を進めていく。時空に微視的な構造があるという指摘は、多くの先行研究でなされてきている。ブラックホールの摂動から放射されるリングダウンシグナルから、そのような時空の微視的構造が観測され得るため、重力波からの重力場の検証について研究していくことは有意義である。 また、曲がった時空での場の量子論はブラックホールの蒸発を引き起こす。これは、1年目の研究テーマのUnruh効果とほぼ等価な現象である。ブラックホールの蒸発は、量子論か相対性理論の破綻を示唆するという指摘は1970年代から議論されてきているが、この問題を初期宇宙論の知識で解決する方法について研究していく。宇宙論では、初期に量子ゆらぎの古典化というプロセスがあったとされている。この古典化はブラックホールの内側でも同様に起きるということを、昨年度発表した。この点からブラックホールの情報問題に挑み、このパラドックスの解決に貢献していく。
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Research Products
(8 results)