2016 Fiscal Year Annual Research Report
高感度化した極低温磁化測定装置による低次元量子スピン系の基底状態の研究
Project/Area Number |
16J01784
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河野 洋平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 極低温磁化測定 / 低次元量子スピン系 / 磁性 / 低温物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、極低温磁化測定装置の改良.磁化測定装置の反磁性成分を軽減する常磁性材料として,マグネシウム-アルミニウム(Mg-Al)合金を作製し,それを用いた試作型の開発をおこなった.以下にこの試作改良型が従来型に比べ改善した点を述べる. (1)従来型よりも磁性不純物によるバックグラウンドを4分の一程度まで軽減することに成功した.これは高純度のMg(純度99.9999%)を用いたことにもよるが,反磁性成分の原因となる材料を軽量化する作製法を考案したことで,必要となるMg量自体を削減できたためである. (2)従来型のAlに代えてMgを用いたことにより,当初の計画で想定したとおり,核磁化による温度変化を抑えることに成功した.例えば,5 Tにおいて,主な測定範囲の2 Kから100 mKの間で従来型は1×10e-4 emu程度磁化が増大していたが,改良型ではその10分の一の1×10e-5 emu程度まで軽減された.上記2点を主とした改善により,Mgを用いた改良型は従来型よりも測定感度の向上に成功した. 2、フェルダジルラジカル系梯子鎖物質2種の量子臨界性の解明.本年度は3-Br-4-F-Vと3-I-Vについて,上記装置による磁化測定及び比熱測定を用いた詳細な三次元秩序相境界の決定をおこない,その下部及び上部臨界磁場近傍の臨界指数を解析した.これらの物質は梯子鎖の足方向の相関が強磁性的なものとしては初めて合成された物質群として知られている. 3-Br-4-F-Vにおいてはその臨界磁場近傍で三次元秩序相境界で普遍的に見られる臨界指数が得られたが、これはこの物質群では初めての観測例である.一方,3-I-Vにおいてはそれとは異なる臨界指数を持つ領域が観測された.この結果は足方向が強磁性的であることを反映している可能性が高く,その観測例はこれまでにないことから意義深い結果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標であった新規磁化測定装置の開発は進展した.研究実績の概要で述べたように,従来型よりも感度の向上に成功し,また,それを用いた磁化測定により,フェルダジルラジカル系梯子鎖物質2種についての新たな極低温物性を明らかにすることができた.一方,上記試作改良型においては,反磁性成分と常磁性成分の相殺という点ではまだ不十分な部分もあり,磁性不純物も含め,目標とする1×10e-5 emu台のバックグラウンドまではあと一歩のため,引き続き改良を行う必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
1、極低温磁化測定装置の改良を引き続きおこなう.具体的には反磁性成分と常磁性成分のバランスを1×10e-5 emu台のバックグラウンドを達成できるように調整する.磁性不純物についても,マグネシウム-アルミニウム合金作製の際の混入等を見直して削減を行う. 2、測定対象として3-Br-4-F-Vと3-I-Vの類縁物質である3-Cl-4-F-Vについても,同様に上記磁化測定装置や比熱測定を併用し,その臨界磁場近傍の量子臨界性を明らかにする.また,3-Br-4-F-Vと3-I-Vについては,研究実績の概要で述べた結果を磁気熱量効果等、他の測定法においても検証する予定である.
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Research Products
(1 results)