2016 Fiscal Year Annual Research Report
多重情報間の相互作用に関する文理解メカニズムの解明-脳科学的観点からの検討-
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16J01818
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
矢野 雅貴 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 神経言語学 / 心理言語学 / 予測的処理 / 統語的処理 / 意味的処理 / 事象関連電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、脳波の一種である事象関連電位を指標として、日本語の文理解中に形態統語的処理と意味処理が、いつ、どのように相互作用しているのかを検討した。実験では、格助詞(が/を)と動詞の種類(自動詞/他動詞)を操作した4種類の文(窓が閉まる/*窓を閉まる/*窓が閉める/窓を閉める)を、日本語母語話者に呈示した。その結果、正文(窓が閉まる)と比較して、格助詞違反文(窓を閉まる)に対して、LAN(Left Anterior Negativity)効果とP600効果が観察された。また、格違反は含まないが意味役割が逆転した文(窓が閉める)に対しても、正文(窓を閉める)と比較して、同様のLAN効果とP600効果が観察された。 「窓が閉める」のような文に対してLAN効果が惹起される原因は、少なくとも二つ考えられる。ひとつは、意味的な情報によって支持される名詞句の意味役割(THEME)が、格助詞の情報(主格)から支持される意味役割(AGENT)と一致しないため、形態統語的な処理負荷が増大している可能性である。もう一つは、名詞句入力時にその情報に基づいて後続する動詞の予測が行われ、動詞入力時にその予測が裏切られるために形態統語的な負荷が増大している可能性である。この二つの仮説の妥当性を検討するために、刺激呈示間隔を短くし、名詞句に基づいて後続要素が予測できないようにした実験を行った。その結果、「窓が閉める」文に対してLAN効果は認められず、P600のみが惹起された。この結果は、LAN効果が、(疑似的な)格違反に反応しているのではなく、名詞及び格助詞に基づいて生成された後続要素に対する予測が裏切られたことによって惹起されていることを示唆している。一方、P600は、予測とは関係せず、形態統語的逸脱と意味的逸脱の修復処理を反映していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、予定していた通り研究課題の実験を実施した。得られた研究成果は、日本語文理解における予測的処理と統合処理の関係性について重要な示唆を与えるものであり、期待通り研究が進展したといえる。また、研究成果を、学会や査読付きの論文で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も事象関連電位を指標として、(形態)統語的処理とその他の処理(視覚的情報の処理)との相互作用メカニズムを探る予定である。
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Research Products
(9 results)