2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J02186
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
阿武 秀和 筑波大学, システム情報系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | マッチング |
Outline of Annual Research Achievements |
臓器ドナー交換ネットワーク構築のための基礎研究を行った。そもそも移植医療が実践されている臓器としては腎臓、肝臓、肺など様々なものがあるが、本研究ではとりわけ肺移植手術のためのドナー交換ネットワークに注目して研究を行っている。肺と他の臓器のドナー交換に関する最大の差異は生体移植手術における必要な生体ドナー数である。腎臓や肝臓移植においては通常1人の患者に対し1人の生体ドナーが寄付することによって移植手術が実行されるが、生体肺移植の場合には通常1人の患者に対し2人のドナーが片側の下葉をそれぞれ1単位ずつ寄付することによって手術が実行される。このような手術形式の差異によって、肺ドナー交換問題はこれまでの腎移植マッチングとは異なるモデリングを必要とするのである。 本年度は、移植手術の実務に携わる専門家へのインタヴューを2回行い、その成果と臓器移植の文献調査の成果に基づいてモデルを定式化し、経済学的な観点から分析を行った。具体的には効率性および公平性を定式化し、それらを満たすような誘因両立的資源配分ルールの設計問題に取り組んだ。この成果の一部を上智大学経済学部セミナーにおいて口頭発表した。また、現在は成果を学術誌に投稿するために論文作成を行なっている。 その他の研究成果としては、論文"On the Operation of Multiple Matching Markets(栗野盛光筑波大学准教授との共著)"がGames and Economic Behavior誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
モデルの定式化や基本的概念の定式化に際し特に想定外のことは起こらなかったので、その段階では計画よりもむしろ早いペースで研究は進行した。具体的な資源配分ルールの性質を調べている際に、当初予想していた通り優先順位ルール(Priority Rule)は効率性と公平性を満たしていることが簡単に確認できた反面、当初の予想に反して優先順位ルールは誘因両立性の代表的概念である耐戦略性を満たしていないことが判明したため、予想を修正する必要が生じた。これに対する対応として誘因両立性の概念として耐戦略性を採用することをやめて、より弱意の誘因両立性概念を採用することにして、全体的な方針は変更せずに研究を行なった。この予想の修正と、修正後の定理の証明に少し時間がかかったが、前半で研究が予定より早いペースで進んでいたことから、全体としては概ね順調なペースで進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定から特に変更はなく、1年目の成果を論文としてまとめ上げて、経済理論の学術誌に投稿する。また、初年度は臓器ドナー交換問題を中心に研究を行ったが、2年目以降はこの成果を論文にまとめ上げる作業と並行して、その他のマッチング問題の研究にも取り組む。具体的には、スポーツドラフトへの応用を念頭に複数財配分問題の研究に取り組む。この問題が既存のマッチングモデルと大きく異なる点は、この分野での中心的な解概念であるコアが存在しない場合がある点である。この点を克服するために、一般化されたコア概念の定式化やその存在問題に取り組んでいく。
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