2016 Fiscal Year Annual Research Report
開閉運動性を有する多核金属錯体の集合・包接・発光に基づく機能創成
Project/Area Number |
16J02191
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井上 僚 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | パラジウム錯体 / 分子運動 / 白金錯体 / 芳香族性 / 燐光発光 / 固体発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究テーマ1:リンカーにアミド基を有する洗濯バサミ型パラジウム2核錯体を合成し、その分子構造と溶液中での動的挙動に関しての研究を行った。詳細な検討の結果、錯体全体のダイナミックなフラッピング運動がアミド窒素のsp2-sp3生に強く依存し、アミド置換基を電子的、立体的に変化させることでその速度を自在に制御することに成功した。2次元NMR実験(EXSY)による速度論や結晶構造解析、DFT計算等を駆使した詳細な考察から、この複雑な配座変換の総合としてのフラッピング運動性の制御が、置換基の窒素上のsp2-sp3反転による単一点制御で行われていることを明らかにした。 研究テーマ2:芳香族性は炭化水素やヘテロアロマティック誘導体などの光学特性のコントロ-ルと理解のために長く重要視されてきたが、燐光発光を志向した遷移金属錯体に関しては詳細な理解がなされていない。本研究ではtrans-bis(β-iminoaryloxy)Pt(II) complex 1-4 を合成し発光特性に関して研究を行った結果、溶液中での発光量子収率が4<3<2<1の順に上昇することを見出した。理論解析により芳香族性が発光特性に与える影響を包括的に理解することに成功した。 研究テーマ3:結晶状態の燐光発光に関する実験と理論による研究はOLEDの発展だけでなく、各種凝集状態を用いた新規機能性材料の開発のためにも重要である。我々はtrans-bis(β-iminoaryloxy)Pt(II)錯体に関する固体発光に関して研究してきた。本研究では渡環型白金錯体に関して単結晶X線構造解析により得られた結晶データと独自に作り上げた理論計算法を組み合わせることにより、結晶状態での燐光発光の熱依存性を初めて理論的に解析し包括理解に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、リンカーにアミド基を有する洗濯バサミ型錯体の溶液中での分子運動性に関する研究をまとた。この結果は"Single-point Remote Control of Flapping Motion in Clothespin-shaped Bimetallic Pd Complexes Based on N(sp2)―N(sp3) Interconversion on Amide Functionalities"を題とするフル論文 Chem. Eur. J., 2016, 22, 5712-5726.として掲載された。 さらに上述の研究テーマ2,3に記載した通り、白金錯体に対する芳香族性の影響を実験、理論を用いることで包括的に理解することに成功した。また固体状態での燐光発光の熱依存性を理論的に解析するプログラムを構築することで新たな知見を得ることができた。これら二つのテーマは本分野で非常にインパクトのある成果であり、研究者本人だけでなく分野全体の今後の指針となる結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は当初の計画通り洗濯バサミ型錯体の開閉運動と上記研究テーマ2,3で得られた発光体を組み合わせ、分子の動的挙動から生じる発光を用いた機能性分子の創出を行う。具体的にはアミドリンカーにクラウンエーテルや2級アミドなどを取り付け、対象分子をとらえた際の開閉運動の停止に伴う色調変化を利用した分子プローブの開発を行う。 また上記研究テーマ2,3で得られた研究成果をフル論文としてまとめ投稿を行う。 さらに本年度リーディングプログラムの一環である海外研修(留学)を通して、本人が上記研究テーマ2で発見した発光の失活の経路を利用し、ガス吸着に伴うセンサーの開発を行う。さらにそれらの分子をプラットフォームとした超分子構造体の創出を目指す。
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