2016 Fiscal Year Annual Research Report
魚類概日リズムの光同調機構と種苗生産への応用に関する研究
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16J02236
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
茂木 淳 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 魚類体内時計 / 視交叉上核 / コルチゾル |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの生物は地球の自転に伴って周期的に変化する環境に適応するため、概日リズム-約24時間周期で動く内在性の制御機構-を有している。魚類においても、個体の持つ概日リズムはホルモン分泌や行動・成長・生殖に関わる重要な制御機構である。本研究は、分子生物学的手法を用いてヒラメの概日リズム形成機構を組織・細胞レベルで解析することで、魚類における体内時計の制御機構の解明に寄与することが目的である。私たちはこれまで、ヒラメの視交叉上核において時計遺伝子period2(per2)が局所特異的に発現していること、またその発現が光応答性のものではなく、内在性のリズムを刻んでいることを報告した。当該年度は体内時計の制御機構の中枢-末梢制御について理解を深めるために、ヒラメの末梢組織(尾鰭)における時計遺伝子の発現リズムをin vivoとin vitroにて観察し、これらにコルチゾルやメラトニンの投与の影響を解析した。ヒラメ尾鰭においてper2、per1、cry1発現の日周リズムを観察した。LD、LL、DD条件における遺伝子発現を比較すると、per2、cry1の遺伝子発現は分子時計による制御に加えて光誘導性があること、per1は分子時計による制御のみであることが分かった。片培養した鰭では発現の周期性も光同調もみられなかった。この片培養した鰭にデキサメタゾンとメラトニンをそれぞれ添加すると、メラトニン添加では有意な変化は見られなかったが、デキサメタゾン添加では各時計遺伝子、特にper1の発現量の増加が見られた。デキサメタゾン添加はin vivoの実験においても同様の結果が見られた。これらのことからヒラメにおいて体内時計は階層的に制御されていること、コルチゾルが中枢時計のシグナルとして末梢時計の時計遺伝子発現を制御している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
魚類の体内時計の制御機構について理解するためには末梢時計の特性を明らかにしておく必須がある。当該年度では、当初の計画のように、ヒラメの鰭における時計遺伝子の日周変動、及び光応答性を観察することができた。またゼブラフィッシュのように、尾鰭が自律的に自身のリズムを光周期に同調することができるかを解析した結果、ヒラメではそのような機構は機能していないことが分かった。このことから末梢時計を同調させる中枢からのシグナルが存在することが示唆された。また計画にはなかったヒラメ仔魚及び培養鰭へのデキサメタゾン及びメラトニンの投与実験を行い、末梢の分子時計を同調させる中枢時計のシグナル因子がコルチゾルである可能性を示すことができた。以上のことから本研究はこれまでのところおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
魚類では網膜、松果体、及び脳深部など幾つかの器官が光受容能を有していることが示唆されている。しかしながら概日リズムの光同調に視交叉上核及び末梢時計の光同調において、どの光受容組織が優位に使われているのかは分かっていない。今後は眼球の除去実験を行い、概日リズムの光同調における網膜の寄与を評価すると共に、中枢時計としての網膜の機能についても解析を進める。 また申請時に計画したように、魚類飼育における最適照明条件の探索を行うため、異なる幾つかの明暗サイクルで仔魚を飼育し、成長量や生残率、そして体内時計の変化を幾つかのパラメーター(時計遺伝子発現、メラトニン合成リズム等)を用いて解析する予定である。
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Research Products
(5 results)