2016 Fiscal Year Annual Research Report
顕微鏡と細胞特異的解析技術を基盤とした初期発生におけるmRNA分解ライブセル解析
Project/Area Number |
16J02257
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
元村 一基 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | RNA分解 / 植物 / 生殖成長 / Decapping / ポリコーム複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物の生殖や発生の過程で個々の細胞は大きく転写産物の構成を変えることが知られている。mRNA分解も、多数の遺伝子、あるいはそこに含まれる特定の機能に重要な遺伝子の分解制御に関わることが想定される。実際に、ショウジョウバエの卵ではRNA分解に関与する酵素がモルフォゲンの濃度勾配の形成に関与することが明らかとなってきている。 植物初期発生においてもmRNA分解調節は重要な役割を担うことが示唆されているが、解析の難しさから研究がなされてこなかった。そこで本研究では、植物初期発生において遺伝子発現制御の根幹をなす、mRNA分解制御の詳細な生理学的意義を解明することを目指している。そのための第一歩として、本研究ではmRNA分解の場であるP-bodyとそこで機能するDCP1とDCP2が、初期発生においてどのような役割を果たすのか理解することを目的とする。具体的には、「どの細胞でどのmRNAを分解すること」が初期発生に重要なのかを明らかにする。また、並行してmRNA合成のボトルネックとなるエピジェネティックな転写制御にも着目することで、植物初期発生における遺伝子発現制御の包括的な理解を目指している。 本研究で明らかになった観察結果に加え、dcp1とdcp2欠失変異体が発芽直後に致死であることを考慮すると、DCP依存的なmRNAの選択的分解が分化・分裂の盛んな組織で重要な機能をはたす可能性が高い。これらの結果を受けて、mRNAが発生段階でどのような役割を果たすのかについてを考察し、国際学会を含む3つの学会に発表した。また、本特別研究員がこれまで行ってきた研究分野の知識を活かし、国際誌にRNA分解に関する総説を発表した。 また、エピジェネティック制御に関与する変異体における結果から、この遺伝子の制御下で新奇細胞融合現象が起きることを発見し、国際誌に研究成果を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではまず初期発生過程のどこでDCP1 とDCP2 が働くのか調べるため、特別研究員が作出したDCP1とDCP2を蛍光タンパク質で可視化したシロイヌナズナを用いて、植物初期発生におけるこれらのタンパク質の発現部位を特定した。様々な発生段階で観察を進めた結果、成熟葉などと比較して、分裂組織や胚では非常に蛍光が強く、多数の顆粒構造が観察された。また未成熟な胚珠など特定の発生段階においてはこれらのタンパク質は発現しておらず、RNA分解系タンパク質の時期特異的な発現パターンが示唆された。 それと並行してmRNA 分解が細胞分化と分裂のどちらに寄与するか調べるため、細胞膜マーカーと様々な胚組織特異的な分化マーカータンパク質を異なる色の蛍光タンパク質で可視化し、申請者が持つdcp1 またはdcp2 欠失変異体に導入した。その結果、地上部の幹細胞マーカー、地下部の幹細胞マーカーどちらに関しても、dcp1変異体, dcp2変異体の後期胚において共に異所的な発現パターンを示すことが明らかとなった。これらの結果より、胚発生においてDCP1とDCP2が行うRNA分解が細胞分化状態に影響することが示唆された。 これらの実験で得られた“mRNA 分解が機能している組織”という情報は初期発生は勿論のこと、植物個体全体を通じても初めての情報である。また、本研究課題に関連した総説も執筆できており、一年目に計画された実験は多少の遅れはあるものの、ほぼ予定通り進んでいるといえる。 加えてRNA分解と協調的に働くことが予想されるエピジェネティック制御に関する研究成果についても国際誌に発表することができたため、本研究はおおむね順調であると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
以上の研究結果より、RNA分解が植物初期発生の特定の段階で重要な働きを担うことが分かってきた。今後はこれらの発生段階における直接的なRNA分解ターゲットを同定するため、誘導系ノックアウト植物を作出して、特定の組織を単離して増減するRNAについて調べる予定である。現在までにコンストラクトの作成は完了しており、来年以降も研究計画の流れに沿って研究を進めていくことが可能であると考えている。更に本研究分野から発展してきた助細胞胚乳融合の研究についても、RNA分解を含めた遺伝子発現変動がどのような役割を果たすのかより詳細に調べる予定である。このように来年以降も多方面から本研究課題を遂行していき、多数の研究成果を報告することを目指す。
|
Research Products
(6 results)