2016 Fiscal Year Annual Research Report
弦理論における準安定状態の崩壊と不純物による触媒効果の研究
Project/Area Number |
16J02259
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
笠井 彩 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | スケール対称性 / カイラル有効理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
弦理論の低エネルギー有効理論は共形対称性を持った場の理論であると考えられている。スケール対称性はこの共形対称性に内包されているほか、テクニカラーモデルの構築においても重要な対称性である。テクニカラーモデルは量子色力学と類似した理論構造を持つため、その低エネルギー有効理論にはカイラル有効理論が考えられる。ただし、量子色力学の低エネルギー有効理論としてのカイラル有効理論とは異なり、近似的なスケール対称性を持つ。今年度はこのような、スケール対称性を持つカイラル有効理論について研究した。そのようなカイラル有効理論の定式化手法が2016年に報告されている(Phys. Rev. D 94, 054502 (2016))が、我々はこの先行研究に一部誤りを発見し、これを訂正した。この有効理論にはパイオン、ディラトンの2種類の粒子が現れるが、この2つの粒子の質量の間に成り立つ関係式を、1ループレベルの量子補正を加味して算出した。この質量間関係式は別の先行研究(Phys. Rev. Lett. 113, 082002 (2014))においても報告されているが、量子補正を加味したのは我々が初である。また量子補正を抜いた我々の質量間関係式とも異なるものであり、この先行研究にも誤りがあったことが分かった。テクニカラーモデル構築の文脈では、このディラトンが標準理論に登場するヒッグス粒子であると考えられているので、ディラトンとパイオンの質量間関係式と格子ゲージ理論によるテクニカラーモデルの格子数値計算の結果を照合してヒッグス粒子の崩壊定数を予言することになる。そのため、先行研究の結果を訂正しておくことに意味がある。本研究成果は論文としてarXivに投稿されている(arXiv:1609.02264)ほか、雑誌Nuclear Physics Bに掲載申請中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スケール対称性を持つカイラル有効理論について、先行研究においてなされている仮定の元で対称性についての考察を慎重に行ない、先行研究との結果の違いの原因を把握している。今後格子数値計算による結果が報告されたとき、ディラトンの崩壊定数を決定できると考えており、ディラトンをヒッグス粒子と解釈できるかどうかの判断基準を提案できると見込んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
先行研究において課されている仮定は非自明性を含むため、これを正当化できるかどうかの傍証を得たい。一つの方針としてはテクニカラーモデルに超対称性を加えてみることが考えられる。超対称性を持つ理論は、その低エネルギーでの非摂動的な振る舞いまで把握することができるため、超対称テクニカラー理論から、低エネルギー領域でのディラトンの質量を直接計算することができる可能性がある。つまり、テクニカラーモデルの特色を決めるパラメータとディラトン質量の間の関係が分かることになる。先行研究の仮定はまさにテクニカラーモデルのパラメータであるフレーバー数とディラトン質量との関係性を制限するものであったため、超対称性を課すことでこの仮定の是非を示唆できると考えている。
|