2017 Fiscal Year Annual Research Report
Surface and Subsurface Scattering Property Estimation and Simplification for Material Editing on Real-world Photographs
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16J02280
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷田川 達也 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | コンピュータ・グラフィックス / 半透明媒質 / 拡散パラメータ推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、非均一半透明物体に対する効率的な表面下散乱パラメータの測定法について研究を実施した。表面下散乱とは光が物体の表面下で複雑に散乱する現象であり、これにより、人間の肌などの特有の見た目が生み出される。表面下散乱を忠実にシミュレーションすることは、コンピュータ・グラフィクスにおけるリアルなシーンの表現に不可欠な技術となっている。その一方で、実物体が持つ表面下散乱の性質を、何らかの測定法により同定する場合、現象を記述するパラメータ変数の多さから、特殊な機材のセットアップや多くの測定時間が必要であるなどの問題があった。一方で、測定されたパラメータ変数は実用時には、現象の再現度を多少犠牲にしても、より扱いやすいデータ形式に圧縮されることが多い。この事実に注目し、本研究では、圧縮後の表現で用いられる少ないパラメータ変数を、より少ない測定で同定する方法を提案した。 上記の研究を実施するうちに、従来の表面下散乱の表現形式は、依然としてデータサイズが大きいことが分かってきた。例えば、タブレット端末やゲームコンソールなど、通常のコンピュータよりもメモリ容量の少ないデバイスでは、扱えるデータ量が大きく制約される。また、通常のコンピュータを使う場合でも、元々のデータ量が大きければ、より高解像度に表面下散乱の現象を表現することは難しくなる。これらの問題を解決するために、測定済み表面下散乱パラメータの圧縮法についても、新たに研究を実施した。この研究では、多くの非均一半透明物体が、少数の基本的な材質の混ざりあいにより形成されていることに注目した。少数の基本材質が持つ表面下散乱の性質だけをパラメータにより表現し、材質全体としては、これらの基本材質の性質を組み合わせて現象を記述する。実際に本研究で開発した圧縮法は、従来方式と同程度に表面下散乱現象を再現でき、データ量は30分の1程度に抑えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
表面下散乱パラメータの測定は、従来、制御可能なカメラと光源を用いる画像ベースの測定法が用いられてきた。これらは、光源環境を変更しつつ、測定対象をカメラで何度も撮影する。撮影後、得られた画像とその時の光源状況を基に、撮影結果を最も良く再現できるパラメータ変数を最適化計算により求める。一連の処理を短時間で行うには、写真撮影と最適化計算の両方を短時間で行う必要がある。撮影時間は必要な撮影枚数に比例して長くなるが、撮影枚数が多くなる理由に、現象を再現するパラメータの多さが挙げられる。そこで、本研究では、よりパラメータ変数の少ない表現法を用いて表面下散乱現象を表した。このように撮影枚数を減らすことは最適化の時間を減らすことにも役に立つが、この測定で用いられる最適化計算は制約付きの非線形最適化であり、一般に解を得るためには多くの時間を要する。本研究では、新たな表面下散乱の表現法を導入し、この最適化計算がより早く完了できる線形最適化で定式化した。この結果、従来、全体で数時間を要していた測定を、写真撮影に数十分、パラメータ推定に数分の時間まで削減した。 測定されたパラメータの圧縮法は、測定された対象が少数の基本材質により形成されるという観察に基づく。一方で、安直な定式化では、表現に用いられるパラメータの決定問題は、複雑な組合せ最適化問題になってしまい、短時間で解くことが難しくなる。そこで、本研究では、この問題を乱択に基づく組合せ最適化問題を組み合わせた交互最適化により定式化し直し、より高速にパラメータを求めた。また、実際に幾つかの測定済みデータに提案法を適用してみると、多くの材質は物体上の各点で高々二種類の基本材質を混ぜ合わせれば、元の性質を十分に表現できることが分かった。混ぜ合わせる基本材質が二個以下の場合は、提案法は数分から数十分でパラメータ変数を決定できるため、実用的にも有効である。
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Strategy for Future Research Activity |
表面下散乱パラメータの測定においては、近似的な表現法を有効に用いることで、パラメータ変数を減らした結果、測定時間を短縮することができた。しかしながら、上記の方法は、近似的な表現法を用いている以上、元の表面下散乱現象を忠実に再現することは難しい。特に、物体上で材質が急に切り替わるような場合には、上記の近似的な表現を用いることは難しいことが分かっている。実際には、カメラと光源をより機械的に制御することで、一回の撮影にかかる時間を短縮することは十分可能であるため、今後は、より一般的な表面下散乱の表現形式に対しても、高速な測定を実現したい。このように撮影枚数を増やした場合には、現在用いている高速な最適化の枠組みでも、それ相応の計算時間を要することが予想されるので、最適化計算においても、より高速に動作する方法の開発が求められる。 また、高速な測定という面では、物理的な現象の再現度を多少犠牲にしても良いので、実時間で視覚的な特徴を再現できれば、その応用範囲は広い。近年、Microsoft社がデモを公開したHoloportationに代表されるテレコミュニケーション技術は、今後大幅に発展する可能性を秘めている一方で、現在は物体表面での拡散反射など、比較的単純な現象しか再現することができない。仮に上記の実時間測定により表面下散乱の表現を実現できれば、よりリアルな映像でテレコミュニケーションを行える。この場合には、単純に材質の光学的なパラメータを測定できるということだけでなく、伝送するデータ量の削減も大きな課題となるため、本年度の研究で得られたデータの圧縮法を応用しつつ、実用的な測定法を実現したいと考えている。その一方で、近い将来、より多くの情報を高速に転送できる5G通信が実用化されるため、より情報量が多く、リアルな材質感を表現できる方法についても、今後の発展が望まれると考えている。
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Research Products
(1 results)