2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J02415
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Research Institution | University of the Sacred Heart |
Principal Investigator |
飯野 りさ 聖心女子大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | シリア正教徒 / 音楽 / アイデンティティ / スウェーデン / 中東 / 民族音楽学 |
Outline of Annual Research Achievements |
中東のキリスト教徒であるシリア正教徒共同体の音楽とアイデンティティの関係について考察する本研究は、ディアスポラの地であるスウェーデンにおけるフィールドワークと文献・録音等の精査・分析による調査研究を二つの柱としている。調査対象は従来から研究されている宗教歌謡(典礼聖歌等)だけでなく世俗歌謡分野も含むが、第1年目である平成28年度は前者に関して主に調査を進めた。第1回目の調査(9月)では、司教座教会の聖エフレム大聖堂で夕べの祈りおよびミサでの朗誦や歌唱を担う青少年の練習会に参加するとともに、聖務日課用の祈祷書および典礼用の聖歌集の使用方法等を確認した。その一方でシリア正教会の助祭でもあるシリア語文献学者から古典シリア語に関して詳しくご教授頂き、現在、上記二文献の読解および分析整理を行っている。これら調査はトルコ南東部(トゥール・アブディーン地方)やシリア北東部出身で口語シリア語を話す集団が中心であった。しかし、2000年頃を境にイラク出身者の増加も顕著なものがあることがわかり、第2回目の3月の調査では彼らの集まる教会で典礼聖歌を歌う女性グループを中心に参与観察を行った。先行研究ではこの集団はほとんど扱われていないが、アラビア語を母語としシリア語をほとんど解さない人々のアイデンティティをいかに解釈するかは今後の課題であり、最終的には本研究の全体像の練り直しが必要となるかもしれない。この他に、第1年目は2016年2月に博士号を取得した博士論文の出版が完了した。その一般向け解説書の出版は第2年目の夏頃になる予定である。また、スウェーデンにはクルド人の移民・難民も多い。上記の第2回目調査では彼らの新年の祝祭に参加し、彼らの音楽に関する予備知識を得た。シリア正教徒の中東での居住地域では彼らは多数派にあたることから、付加的ではあるものの並行して調査することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スウェーデンでの渡航調査を9月(第1回)と3月(第2回)に行い、第1回では司教座教会を拠点として宗教歌謡分野に関する調査および資料収集を行い、同時に行った古典シリア語に関する研鑽は順調に進んだ。第2回に関しては前回の調査を踏まえてイラク系教会に対象を絞り、同様の調査を行った。こうした資料収集およびその精査・分析はおおむね順調である。これまでの研究成果である博士論文(アラブ古典音楽の旋法体系)の出版が2017年2月に完了し、同論文を基にした一般向け入門書の出版は第2年目の夏には完了する予定である一方で、英語の旅行記の翻訳出版等に関して若干、時間がかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年目では、第1年目からの継続課題である祈祷書および聖歌集の解釈および旋律の確認等を完了させたい。この集団の世俗歌謡の担い手たち(歌手や作曲家)には助祭出身者が多いため、こうした作業を終え必要な知識を得た後には調査対象を世俗歌謡分野にも広げる予定である。世俗歌謡に関してはその音楽的特徴が他集団との関わりと関連していることから、シリア正教徒の中東での居住地で多数派であるクルド人の音楽・歌謡との関連性も視野に入れながら、考察を進めてゆく予定にしている。
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