2016 Fiscal Year Annual Research Report
物質反物質非対称性の起源と暗黒物質およびインフレーション理論に関する研究
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16J02529
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山田 將樹 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | インフレーション / 暗黒物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙背景放射の温度ゆらぎの観測によってインフレーション理論の正当性はほぼ確立したが、インフレーションからビッグバン元素合成の時代までの宇宙はどのようにつながっているのかという疑問は初期宇宙論の一つの大きな問題として残されている。本研究ではそのなかでも物質・反物質非対称性、暗黒物質の起源、およびインフレーションについての研究を行っている。 天文学的な観測によると、暗黒物質の密度分布は銀河中心に近づくにつれて緩やかに増加していくことがわかっている。しかし、暗黒物質の理想的なモデルであるCold DM modelに基づいたN体計算によると、密度分布は比較的急激に増加することが予言される。これらの不一致は暗黒物質がある程度の自己相互作用を持っていると説明することができることが知られている。本研究では、この不一致を解決するのに必要な自己相互作用の強さを与えてかつ暗黒物質の存在量が必要な値に自然になるようなモデルを与え、その検証方法を議論した。 インフレーションはインフラトンと呼ばれる仮想的なスカラー場によって引き起こされると考えられているが、本研究ではインフレーション終了後にインフラトンの密度ゆらぎが増幅されI-ballとよばれる準安定なインフラトンの塊を形成する可能性に注目した。このスカラー場を仮想的に複素化したときに与えられる近似的な対称性に付随する保存則によってI-ballの安定性を示すことができる。このとき、対称性を破る効果が現れることによってI-ballが崩壊していくことを示し、かつ数値的に解析したものと比較することによってその計算の正当性を確かめた。 超弦理論の発展により、低エネルギーでは大量のスカラー場が存在することが示唆されている。本研究ではこれをモデル化し、インフラトンのポテンシャルが統計的に与えられるとしてそれが予言する観測量の確率分布を計算した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで研究を行っていたランドスケープに基づくインフレーションモデルでは、ポテンシャルの相関長が小さい場合については数値計算によって確かめることが困難であった。しかし、科研費の補助を受けてTufts Universityへ出張することが可能になり、そこでVilenkin教授およびMasoumi研究員との議論によって困難を解決する方向に向かった。具体的には、相関長が小さい場合には準解析的に計算を進めることを発見し、インフレーションの長さなどの実現確率を近似的に求めることが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのランドスケープに基づくインフレーションモデルの研究では、本来は多次元空間上でのポテンシャルを議論すべきところ、我々はそれを一次元に落として簡単化して解析していた。これは定性的には正しい答えを与えることが期待されるものの、より正確な予言を行うには多次元の効果も考慮しなければならない。しかしこの場合には観測可能宇宙の生成の計算方法は一次元の場合と全く異なる。この計算に関してはTufts UniversityのMasoumi研究員が得意としているところであり、彼の協力を得てこの問題を解決する予定である。
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Research Products
(8 results)