2016 Fiscal Year Annual Research Report
コレラ菌由来ナトリウム輸送性NADH-キノン酸化還元酵素の生物有機化学的研究
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16J02535
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 剛 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ナトリウム輸送性NADH-キノン酸化還元酵素 / Vibrio cholerae / オーラシン |
Outline of Annual Research Achievements |
Na+-NQRにおけるユビキノン結合部位を同定する目的で、光反応性ユビキノン(PUQ-3)を合成し、コレラ菌Na+-NQRに対する光親和性標識実験を行ったところ、NqrAサブユニットが特異的に標識された。さらに、NqrAサブユニットのプロテアーゼ限定分解より、PUQ-3標識部位、即ちユビキノン結合部位がNqrAサブユニット内の洞窟様の空間を構成するLeu32-Met39あるいはPhe131-Lys138の領域に存在することがわかった。 Na+-NQRの阻害剤、オーラシン類HQNOの阻害活性はさほど強くない。そこで、所属研究室のオーラシンライブラリーをスクリーニングし、HQNOの1000倍の強力なAD-42を見出した。また、HQNOに対して薬剤耐性を示す変異酵素(NqrB-G140AとNqrB-E144C)について、AD-42の阻害活性を評価したところ、両変異酵素の阻害剤感受性が完全に消失した。本結果は、NqrBサブユニットが阻害剤の結合に関与することを強く示唆する。 Na+-NQRにおける阻害剤結合部位を同定する目的で、AD-42を鋳型として光反応性オーラシン([125I]PAD-1と[125I]PAD-2)を合成し、Na+-NQRに対する光親和性標識実験を行った結果、NqrBサブユニットのN末端領域Arg43-Lys54とTrp23-Gly89をそれぞれ特異的に標識した。コレラ菌Na+-NQRのX線結晶構造において、本領域はNqrBサブユニットからNqrAサブユニット側に突き出した構造をとり、上記のユビキノン結合部位の一部を構成する。一方、PUQ-3標識実験より、ユビキノン結合部位とオーラシン結合部位は同一ではなく、オーラシンがNa+-NQRに結合し、両サブユニットの接触領域の構造変化を誘引後、間接的にユビキノンへの電子伝達反応を阻害することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光反応性ユビキノン(PUQ-3)を用いた光親和性標識によって、コレラ菌Na+-NQRのユビキノン結合部位が、NqrAサブユニットの”solvent-accessible cavity”と呼ばれる洞窟様の領域に存在することを明らかにした。また、新たに見出したNa+-NQRの阻害剤 オーラシンD-42(AD-42)を鋳型に、光反応性オーラシン([125I]PAD-1および[125I]PAD-2)を合成して光親和性標識を実施し、阻害剤の結合部位がNqrBサブユニットのN末領域に存在することを明らかにした。そして、同定したユビキノンと阻害剤の結合部位が互いに近接した位置関係にあり、NqrAおよびNqrBサブユニットの境界領域で生じる構造変化が、酵素の触媒活性に重要な役割を果たしていることを明らかにした。以上の成果は、アメリカ生化学・分子生物学会誌であるThe Journal of Biological Chemistryに報告しており、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
キノンとオーラシンのカルボニル炭素を13C標識したプローブ分子を合成する。続いて、各プローブでNa+-NQRを再構成し、それぞれのカルボニル基に由来する伸縮振動を酸化還元誘導FTIR分光法により帰属し、13C標識カルボニル基と近傍アミノ酸残基との水素結合を精査する。また13C標識キノンで再構成されたNa+-NQRについては、水素結合によるセミキノンラジカルのスピン密度の変化をEPR分光法により検出する。さらに28年度の標識実験で、各プローブの結合親和性が著しく低下した変異酵素を選抜し、FTIRやEPR解析を実施し、キノン環とアミノ酸残基との相互作用を分子レベルで総合的に明らかにする予定である。
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Research Products
(5 results)