2016 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー重イオン衝突事象におけるQGP生成過程の解明
Project/Area Number |
16J02712
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田屋 英俊 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 高エネルギー重イオン衝突 / 粒子生成 / Schwinger機構 / 量子色力学 / 非平衡量子過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、高エネルギー重イオン衝突初期におけるQGP生成過程を解明することである。重イオン衝突直後は、非常に強い古典カラー電磁場が系を特徴づけることが知られており、この強い古典カラー電磁場中の量子色力学(QCD)の非平衡発展を記述する理論的枠組みを構築し、それを数値的に正しく評価することが、本研究課題の遂行において重要になる。 今年度は、そうした強い古典カラー電磁場中のQCD非平衡発展を、平均場近似の範囲内で解析する理論的枠組みを新たに開発した。具体的には、まず、強い古典カラー電磁場中のクォーク・グルーオン・ゴーストの量子ゆらぎを考える。強い古典カラー電磁場に由来する非摂動的な相互作用は厳密に扱う一方、量子ゆらぎ間の非線形相互作用には平均場近似を施す。そうすることで、古典カラー電磁場の崩壊や粒子生成、粒子間の散乱(の一部)などの重要な効果を取り込み、なおかつ、取扱いの簡単な運動方程式を導出した。この運動方程式は、従来の運動学的方程式や古典場の方程式などを用いた有効理論による解析に比べて適用可能領域が広く、また、二粒子既約(2PI)形式などと違い、数値計算が容易なことに強い利点がある。 次に、これら運動方程式を、重イオン衝突初期で現れるような状況下で実際に数値評価することでQGP生成過程を議論した。具体的には、重イオン衝突系の衝突軸方向への膨張(Bjorken膨張)を考慮し、初期の強い古典カラー電磁場が横平面に一様な電場的配位のみを持つような簡単な状況を考察した。その結果、(1)古典カラー電磁場は、数fm/cという短時間で崩壊し、大量のクォーク・グルーオン粒子で構成された物質が短時間で生成されることを示した。(2)圧力の時間発展を追うことで、比較的に等方性が高い物質が早期に生成されることを示した。(3)クォーク生成は十分に多く、グルーオン生成に比べ早く完了することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標は、平均場近似の範囲内でQGP生成過程の解析を完了させることであった。この目標は、研究実績に示した通り、概ね達成されたものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
系の熱化/流体化を理解するためには、生成粒子間の相互作用の効果をより詳しく検討する必要がある。そのためには、本年度の研究で用いた平均場近似を超えた解析が必要となる。相互作用の重要性を調べることは、本研究計画の最終的な目的の一つでもあるから、来年度に積極的に取り組みたい。 また、本年度は重イオン衝突直後の強いカラー電磁場の配位について、「横方向に一様な古典カラー電場」という非常に簡単なモデルを考察したが、実際に生成される古典カラー電磁場は横方向に複雑な構造を持ち、磁場の成分も存在する。実際の実験データとの対応をより精密に議論するためには、より現実に即した配位の下での数値計算を来年度に実行することが不可欠と考えている。
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Research Products
(4 results)