2016 Fiscal Year Annual Research Report
Study on the transregional context of the Indo-Iranian style paintings in the Buddhist rock monasteries alongside the Northern Silk Road
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16J02828
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
檜山 智美 龍谷大学, 研究部, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 仏教壁画 / 仏教図像 / 西域 / シルクロード / クチャ・亀茲 / 仏教石窟寺院 / インド・イラン様式 / 仏説法図 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、現在の新疆ウイグル自治区クチャ地域に残る、古代亀茲国の仏教石窟寺院を彩る壁画を、図像学・歴史文化学的アプローチを組み合わせつつ、5~7世紀のシルクロードの超域的コンテクストの中で分析することを目的とする。第一年度は①仏説法図の図像研究、②仏教壁画中に描かれた織物の歴史文化背景の研究と、③未比定の寄進者像の研究という三つのテーマの研究を主軸に行った。 ①に関しては、クチャの石窟壁画の特徴的な主題である仏説法図が、一定の絵画的語彙と絵画的文法の組み合わせによって構成されていることに着目し、その絵画ロジックを一般言語の文法構造と比較しながら解析する試みを行った。仏説法図に用いられた絵画ロジックの解明は、これまで僅かな専門の研究者間でのみ共有されていたクチャの仏教絵画の「読み方」を、美術史全般、ひいては視覚資料を扱う学問全般のレベルで共有し、学際的な議論を可能とするものである。 ②に関しては、クチャの第一インド・イラン様式の壁画に特徴的に表れる、幾何学紋様が描き込まれたタイプの袈裟を、甘粛省やアフガニスタンの関連作例や、新疆北部から発掘された実物の織物断片と比較することにより、当該の織物が、トルファン出土文書に言及されている「丘慈(=クチャ)錦」であると同定することが出来た。この結論は、これまでその実態が明らかにされてこなかった「丘慈錦」に対する画期的な新知見を提示すると共に、絶対年代の不明であったクチャの第一様式壁画を、5世紀中葉~6世紀中葉に位置づけることを可能とした。 ③では、ベルリン国立アジア美術館所蔵の、キジル石窟第60窟(最大窟)から切り取られた第一様式の壁画断片に描かれた人物像が、亀茲国の女王とその侍者を表している可能性が極めて高いことを指摘した。この発見は、これまで未知であった、クチャの第一様式壁画と王族の寄進を示す新資料を提示するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一年度の成果を鑑みるに、特別研究員PDへの申請時点で想定していたよりも、遥かに実り多い研究成果を挙げることが出来たように思われる。特に、壁画の図像学を視覚言語というレベルで一般化して記述することが出来たこと、そして、西域北道の壁画に描かれた織物の図像を通して、当時の織物の歴史的な流通状況を再構成することが出来たほか、東南アジアに現代も息づく仏教文化との強い連関すらも観察することが出来たことは、申請時点では自ら予期していなかった成果である。これらはいずれも、様々なディシプリンに基づき、世界各地の仏教文化の研究を遂行する研究者の集う、龍谷大学の学術環境に身を置き、日々新たな学問的刺激を受けつつ、存分に研究活動に専念することが出来たからこそ得られた学術成果であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年次以降も、引き続き研究計画に基づき、クチャの第一インド・イラン様式壁画を中心に、未比定の図像の比定と、細部モチーフの歴史文化的背景を分析することで、西域北道における「インド・イラン様式」の成立と発展について、超域的コンテクストの中で解明してゆきたい。 但し、第一年次の成果を踏まえ、今後の研究計画には、主に以下の二点において変更を加える予定である。 ①東南アジアにおけるフィールドワークの追加 第一年次の研究の進展と共に、東南アジアの現代の上座部教団の仏教儀礼が、西域北道の仏教壁画図像の理解の鍵となり得ることという新知見を得た。そのため、第二または第三年度に、タイ及びミャンマーにおいて、在家信者からの僧団への大規模寄進を伴う儀礼など、美術と関連の深い諸々の仏教儀礼の現地調査を追加する予定である。 ②龍谷大学を拠点とした研究計画の遂行 特別研究員として龍谷大学での研究生活をスタートさせて初めて、龍谷大学の西域仏教美術史分野における研究リソースが、世界的な視点で見てもトップクラスであることが分かった。大谷探検隊以来の西域仏教研究の歴史のある本学では、国内外の関連の貴重図書が一世紀以上かけて連綿と収集され、また今でも伝統ある研究会や講読会が日々学内で開催されている。そのため、本来の研究計画では、第二年度及び第三年度は、ドイツの諸研究機関を拠点として長期滞在を行う予定であったが、むしろ普段の論文執筆の拠点は3年間を通して龍谷大学に置き、ドイツでの長期研究滞在用に予定していた予算に関しては、支出方針を変更し、ドイツでの資料調査は引き続き行うが、出張先を必ずしもドイツに絞らず、むしろ関連分野の国際学会やワークショップ、関連分野の研究者が多く集う米国の研究所など、国外の最新の研究動向情報を入手出来る場に短~中期的な出張を行うことにより、国際的な研究ネットワークを構築してゆきたい。
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