2017 Fiscal Year Annual Research Report
逆ぺロブスカイト型強磁性窒化物細線における磁壁物性の横断的研究
Project/Area Number |
16J02879
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
具志 俊希 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | スピントロニクス材料 / 電流駆動磁壁移動 / スピントランスファートルク / 強磁性窒化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
異常ホール効果測定によりMn4N薄膜のヒステリシス曲線の評価、及び磁気力顕微鏡とカー効果顕微鏡を用いた磁区構造の観察を行ったところ、SrTiO3(STO)上の試料は急峻な磁化反転特性と100%の残留磁化を持つこと、消磁後に1mm以上の巨大な磁区を持つことから、磁気特性が一様な連続膜の形成が期待される。すなわち、STO上に成長することでMn4N本来が持つスピントロニクス材料としてのポテンシャルを引き出すことに成功した。 STO基板上に成長したMn4N薄膜をホールバー形状に加工し、スピントランスファートルク(STT)の効率、及び直流電流による磁壁移動の閾値を評価した。磁壁移動を妨げる向きに直流電流を流しながら磁化曲線を測定したところ、90GA/m2の直流電流で約0.7Tの保磁力増加が確認され、STTの効率としては約7.7pTm2/Aと、既存の磁性材料と比較しても高い値が得られた。また、磁場ゼロで直流電流を注入することで磁壁移動を試みたところ、120GA/m2以上の電流で磁壁が移動することを確認した。この値は他の磁性材料と比較しても遜色ない小ささである。 パルス電流による磁壁の移動も試みた。パルス電流注入の前後でのカー効果顕微鏡像の差分から磁壁の変位を求め、平均移動速度を算出した。その結果、磁壁の移動速度は注入電流に概ね比例し、線形近似から磁壁移動の閾値電流はおおよそ140GA/m2程度と見積もられた。また、磁壁速度は700GA/m2で240m/sと算出された。この値は、スピン軌道トルクを用いない材料固有の値としては全磁性材料中でも最高レベルであり、駆動電流密度も他の磁性材料と比較して一桁小さい。すなわち、レアアースを一切用いない新規磁性材料Mn4Nにおいてトップレベルの磁壁特性、STTに効率を実現し、磁壁デバイス応用への大きなポテンシャルを明確に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Mn4Nの磁壁物性に焦点を当てて研究を進めた。まず、分子線エピタキシー法を用いてMn4N薄膜をMgO(001)、SrTiO3(STO)(001)基板上にそれぞれ10 nmずつ成長した。Mn4NはMgO基板上に成長されるが、本研究では格子定数が近いためにより高品質なMn4N薄膜の成長が予想されるSTO基板も使用し、両者の差異を評価した。その結果、MgO上のMn4N薄膜の磁区幅は1 μm以下と、通常の垂直磁化膜と同程度であったのに対し、STO上の試料では磁区の幅は1 mm以上あり、単結晶磁性膜としては突出した値を得た。続いて、Mn4N膜を細線に加工して、電流駆動での磁壁移動速度を測定した。その結果、磁壁の移動速度は注入電流に概ね比例し、線形近似から磁壁移動の閾値電流はおおよそ140 GA/m2程度と、直流電流と同程度であると見積もられた。また、磁壁速度は700 GA/m2で最速値240 m/sが得られた。このように、レアアースを一切用いない新規磁性材料Mn4Nにおいて、磁壁デバイス応用への大きなポテンシャルを明確に示したことから、期待以上の研究の進展があったと認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、このMn4N/STO構造の持つ磁壁トラップの少なさを活用した電流駆動磁壁移動デバイスへの応用に加えて、界面の酸素欠陥に起因した2次元電子ガスからのスピン注入やゲート電界効果によるMn4N層の磁気異方性制御にも注目し、Mn4N薄膜のスピントロニクス応用への道を探る。 電流駆動磁壁移動については、デバイス構造を最適化しインピーダンスを下げることで、パルス電流の注入効率を改善する。また、本年度の測定はあくまで予備実験であるため、十分な測定回数やパルス長、さらなる大電流領域での磁壁移動速度を評価し、Mn4N中における磁壁移動のメカニズムの解明を目指す。 また、Mn4Nの持つ欠点として、高い比抵抗が挙げられる。電流密度に換算すれば他の材料と比較しても低電流で高速な磁壁移動を実現しているものの、大電流の注入には10Vを超える大電圧が必要となってしまっている。そこで、Mn4N上にPtといった重金属でキャップを施すことで、スピン軌道トルクを活用した更なる高効率電流駆動磁壁移動の実現にも挑戦する予定である。 磁壁移動とは独立して、昨年度後期から、Mn4N/STO構造における電界効果磁気異方性制御にも挑戦している。STO基板は従来のMgO基板と比較して誘電率が15倍と大きく、極低温では2万程度の巨大誘電率が発生する。そこで、STO基板上の磁性膜にゲート電圧を印加することで、同じ電圧でもより効率的に電荷を蓄積し、磁気異方性を制御することが可能であると期待している。また、STO表面は電圧印加によって生じた酸素欠陥に起因した2次元電子ガスの存在も確認されているため、逆エデルシュタイン効果を用いた磁性層中へのスピン注入にも注目している。同現象はSTOのみならず多くのペロブスカイト型酸化物でも実現が期待されるため、それらの基板上へのMn4Nの成長にも挑戦する。
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Research Products
(7 results)