2016 Fiscal Year Annual Research Report
海水温が恒温・変温動物間の捕食者―被食者関係に与える影響の解明
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16J02935
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安達 大輝 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | キタゾウアザラシ / バイオロギング / 捕食者―被食者関係 / 動画解析 / 感覚器 / 動物生態学 / 採餌 / 生物発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
一年目にあたる本年度は、アザラシの頭上に装着したビデオカメラから得られた動画を用いて彼らの餌種の詳細な同定を行った。その結果、餌種はほとんど(約86%)がハダカイワシなどの魚類であることが分かった。これまで主な餌種であると思われていた頭足類の割合が実際は7%ほどと低いこと、また魚類が重要であるということ、が明らかになった。本研究は「現場」での餌種の撮影が海棲生物の生態解明に重要であることを示唆するモデル研究として、学会・論文発表を通して今後発信していく予定である。 及び、アザラシの頬に新規開発した小型ビデオを装着、野外でのヒゲの動きを撮影した。コンピュータによる動画解析の結果、アザラシは餌のいる350m以深ではヒゲを「アンテナ」のように前方に拡げていることが分かった。動画に写る餌(魚)が活発に泳いでいることから、ゾウアザラシはヒゲによって水流を感知することで暗闇で餌を採っている、と示唆される(従来から言われていた「アザラシは感覚器であるヒゲを使用し、暗闇(夜や深海)で餌を採っている」という仮説を検証した)。さらに、開発した光センサー搭載型の加速度計を用いた野外実験を同時に実施することで、生物発光も餌のシグナルとして重要であることを野外で初めて実証した。これらの結果は、ゾウアザラシはヒゲによる餌の感知に加えて、付加的に生物発光を視覚刺激として採餌に利用していることを示唆している。本研究は海洋動物の「餌の探し方に関する科学」を感覚器視点で議論した研究例としてフィールドにおけるバイオロギング研究に新たな展開をもたらすと期待される。本結果は国際学会での発表を予定、そして、現在国際誌への投稿に向け論文執筆中である。 以上のように、予定していた餌種の特定、コンピュータによる動画解析手法の確立を達成した。今後これらの結果を海洋環境(海水温)と併せて解析することで、本研究課題達成を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特別研究員として1年目となる平成28年度はカリフォルニア大学と共同でアザラシに小型ビデオカメラを装着しデータを取得した。そして、受入先研究室が得意とするコンピュータでの動画解析手法を学び、取得したビデオデータを解析することで、アザラシの餌種の同定、さらにアザラシが感覚器であるヒゲを使用し暗闇(夜や深海)で餌を採っているということを野外で初めて明らかにした。平成28年度中に論文投稿には至らなかったが、これらの研究結果を含んだ論文は現在執筆中であり近日中に国際学術雑誌への投稿が期待できる。 1年目で取得・会得したデータや手法は3カ年計画の本研究遂行・研究課題達成に有益であると考えられ、今後の研究展開にも期待が持てる。平成28年度は1年目に予定していた通り、餌種の特定、コンピュータによる動画解析手法の確立を達成したことから、今後これらの結果を海洋環境(海水温)と併せて解析することで、本研究課題達成を目指す。以上のように、1年目となる平成28年度はおおむね順調に進展していたと認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成29年度も昨年度と同様にカリフォルニア大学と共同でアザラシに小型ビデオカメラを装着し、研究達成に必要なデータセットを取得する予定である。そして、平成28年度と同様に餌種の特定を行なう。まず、ここまでの段階で(1)餌種に関する情報、(2)餌サイズに関する情報、(3)感覚器であるヒゲの動きと採餌行動についての情報、これら3つを論文としてまとめ投稿し、平成29年度中の受理を目指す。また、(1)、(3)については国際学会(それぞれ第二十二回国際海棲哺乳類学会、第六回国際バイオロギングシンポジウム)で発表することでも成果を発信する。 次に、取得した動画データ・海水温データを用いて本研究テーマである「海水温が恒温・変温動物間の捕食者―被食者関係に与える影響」を検証する。具体的には、餌種・餌サイズ・海水温の情報を主に使用し解析することで達成する。平成29年度中におおまかな解析を終えることを目標とし、補足データが必要な場合は、平成30年2月に再度カリフォルニアにてアザラシに記録計を装着・同年5月に回収することで、データを取得する。そして、最終年度での論文受理を目指す。
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