2017 Fiscal Year Annual Research Report
水素利用機器用金属材料の高圧水素ガス環境中における疲労強度特性に関する研究
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16J02960
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小川 祐平 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 疲労き裂進展 / 水素脆性 / BCC結晶 / 転位 / 走査型電子顕微鏡 / 透過型電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度と同様に純鉄を用い,水素ガス中での疲労き裂進展を支配するミクロな機構について引続き検討を行った.また,本研究課題の当初の目的である疲労限度近傍でのき裂進展挙動解明へのアプローチとして,低応力拡大係数域における破壊現象にも着目した. 昨年度までの研究において特に中~高応力拡大係数域では,水素ガス環境下で疲労き裂先端の塑性変形発達が劇的に抑制され,き裂が鋭利な形状を保ったまま進展することが既に明らかとなっている.この理由を明確にする目的で,当該年度は電子線後方散乱回折法(EBSD)と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた破面直下の転位組織観察を実施した.その結果,上述のように塑性変形の発達レベルが低い場合においては,き裂が結晶のへき開面,すなわち原子間結合力が最も小さい特定の面に沿うこと,また破面直下の転位密度が大気中と比べて著しく低いことを発見した.従来,特に低強度材料中の水素脆化現象は,水素がき裂先端でのミクロな延性破壊を助長する結果であると解釈されてきた.しかしながら,本研究で得た結果が示すのは,き裂先端での水素の役割はむしろミクロな脆性破壊を助長することであるという事実であり,これまでの常識的見解を大きく覆すものである. また,そのようなミクロな脆性破壊に伴った大幅なき裂進展の加速が生じる高応力拡大係数域に対し,低応力拡大係数域ではき裂の加速が抑制され,水素が結晶粒界に沿う破壊を助長することを解明した.この粒界破壊は水素による転位運動の助長とそれに伴う粒界へのダメージ形成であることがEBSDとTEMを用いた観察から確認されている. すなわち,同じ純鉄中であっても,応力拡大係数の大きさにより,転位運動の助長または抑制という相反する側面を持って水素がき裂先端での変形挙動へと影響し,この2面性がマクロなき裂進展の加速挙動に対して重要な役割を担うことが本研究により新たに示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究において解明したマクロ~メゾスケールでのき裂進展挙動と併せて,当該年度はよりミクロなスケールでの破面直下転位組織,並びに水素誘起破面の結晶学的方位を明らかにできたことにより,BCC結晶の水素ガス中疲労き裂進展加速機構に対する理解は大きく進展したと言える.また,本研究課題の最終目標である水素ガス中における疲労限度近傍での停留き裂発現メカニズムの解明に向けて低応力拡大係数域に目を向け,き裂進展の加速が著しい高応力拡大係数域とは全く異なる材料挙動が見られるという従来にない新たな実験事実を得ることができた.以上のように低~高応力拡大係数域までのき裂進展挙動を包括的に理解するための重要な知見を得ることができ,昨年度に掲げた研究推進方策を着実に進展させられていることを踏まえ,「おおむね順調に進展している」の評価とする.
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Strategy for Future Research Activity |
引続き純鉄を用い,当該年度に実施できなかった試験温度および負荷周波数を変化させた疲労き裂進展試験を実施し,これまでに明らかにしたき裂先端転位運動への水素の影響に対してこれらのパラメータがどのような変化をもたらすかに着目する.上記2つのパラメータを変化させることは,き裂先端における変形温度とひずみ速度が変化することを意味し,BCC結晶中の転位運動に対して大きな影響を与えることが予測される.幅広い温度範囲,充填・放出周期で作動する実用高圧水素機器中の材料挙動を予測するという観点からも,温度と負荷速度の影響解明は極めて重要な課題である.また,新たな着眼点として水素以外の格子間元素,特に固溶炭素の影響に着目する.これまで用いてきた市販の工業用純鉄には精錬の過程で除去できない微量の固溶炭素が含まれているが,BCC結晶中における水素と転位の相互作用には固溶炭素が著しい影響を与えることが報告されており,故に固溶炭素を含む材料を用いてき裂先端転位運動への純粋な水素の影響をスクリーニングすることは難しい.したがって本研究では,格子間炭素を完全に除去した市販材であるIF鋼を用いる.これまでと同様に水素ガス中で疲労き裂進展試験を実施し,複数の電子顕微鏡観察手法を用いたき裂先端の解析により,BCC結晶中の水素誘起疲労き裂進展過程における破壊現象の本質に迫る.
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Research Products
(8 results)