2016 Fiscal Year Annual Research Report
VI族遷移金属ダイカルコゲナイドヘテロ積層構造の成長とバレーダイナミクス観測
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16J02962
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
岡田 光博 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 原子層 / 遷移金属ダイカルコゲナイド / ヘテロ積層構造 / 発光特性 / 励起子 / 励起子分子 / 層間励起子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、博士課程前期課程より行ってきた六方晶窒化ホウ素(hBN)上に合成した硫化タングステン(IV)原子層、並びに原子層ヘテロ積層構造の発光特性について研究を行った。 hBN上に合成した硫化タングステン(IV)原子層は、80 Kにおいて4つのピークを持った発光スペクトルを示す。このピークの由来を探るべく励起光出力依存性等の測定を行った結果、その1つが多重励起子のひとつである励起子分子の発光由来であることがわかった。このうち励起子分子発光は既報と比べ遥かに高い温度、1/100以下の低い励起光出力で観測され、その大幅な安定化に成功した。この結果はhBN上への直接合成による高い品質が本質的であり、この試料が基礎物性の探索に有効であることを示している。以上の結果は論文にまとめ、Scientific Reportsに掲載された。 更に励起子物性の探索を進めるべく、私は原子層ヘテロ積層構造に注目した。異種原子層を積層した原子層ヘテロ積層構造のうち、半導体原子層をType-IIバンドアライメントになるよう積層すると、荷電粒子が層間にまたがった層間励起子が生成する。層間励起子は層内励起子と比べ1000倍以上発光寿命が長いため多重励起子等の探索の場として適しており、本研究の素材としてはうってつけである。私は本研究のもう一つの骨子である高い品質を持った原子層ヘテロ積層構造を作成すべく、化学気相成長法と乾式転写法を組み合わせた新しい手法を開発し、hBN保護された原子層硫化タングステン(IV)・硫化モリブデン(IV)ヘテロ積層構造を作成することに成功した。作成したヘテロ積層構造は常温にて層間励起子由来の発光を示し、そのスペクトルは既報より遥かに詳細な構造を持って現れた。これはhBN保護の効果と原子層同士がクリーンな界面を持つためであり、この新規手法と試料が高い有用性を持っていることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、私はhBN上に直接合成した高品質原子層硫化タングステン(IV)において多重励起子のひとつである励起子分子の発光の観測とその大幅な安定化に成功し、それをまとめた論文がScientific Reportsに掲載された。一方で、この高品質な硫化タングステン(IV)を用いても励起子の発光寿命は極端に短く、本研究の目的の一つである多重励起子探索に必要な励起子蓄積には向かないことも判明した。 そこで、私は原子層ヘテロ積層構造に着目した。異種原子層を積層した原子層ヘテロ積層構造のうち、半導体原子層をType-IIバンドアライメントになるよう積層すると、荷電粒子が層間にまたがった層間励起子が生成する。この層間励起子は、その発光寿命が層内励起子と比べ1000倍以上長く、励起子蓄積が容易である。この層間励起子の特徴として、ヘテロ積層構造をなす原子層同士の積層角によって光物性が変化することが知られている。これに加え、本研究の骨子の一つである高品質な試料を作製すべく、私はhBNで保護された、かつ積層角を制御したヘテロ積層構造を作成する手法を編み出すこととした。これの双方をなすべく、私は結晶形状から結晶方位角が判別可能な化学気相成長法、そして複数種類の原子層積層が可能、かつ自在な積層角を生み出せる乾式転写法を組み合わせる新規ヘテロ積層構造作成手法を生み出し、hBN保護された原子層硫化タングステン(IV)・硫化モリブデン(IV)ヘテロ積層構造の作成に成功した。 作成したヘテロ積層構造は常温において層間励起子由来の複数ピークを持った発光を示し、その発光ピークは既報よりも遥かに詳細な構造を持って現れた。現在、その層間励起子の発光の由来を探るべく、各種物性の測定を進めている。 よって私は初期の課題を更に発展させ、新たな課題に挑戦しているといえる。よって、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上述したhBN保護された原子層硫化タングステン(IV)・硫化モリブデン(IV)ヘテロ積層構造における層間励起子の由来について探索を進める。励起波長依存性測定、発光寿命測定等の実験的な研究に加え、海外の研究者との共同でDFT計算によるヘテロ積層構造のバンド構造・結合状態密度計算等の理論的なアプローチと合わせ、その由来を探っていき論文にまとめる予定である。 同時に、層間励起子の寿命の長さを活かし、励起子蓄積による新奇励起状態の発現の探索やexciton-exciton annihilation発生の可能性を探る。また、作成した試料に対しグラフェンや金属を用いたトップゲート電極ならびにドレイン電極を取り付け、キャリアドープや縦電場の印加による発光特性の変調やそれに伴う高次の励起状態探索、そしてこれらの条件下における層間励起子とその高次の励起状態のバレーダイナミクス測定などを行っていく予定である。 また、同時に作成したヘテロ積層構造の断面TEM観察を行い、その層間距離を測定する研究を行う。作成したヘテロ積層構造はサンプルやその積層角によってその発光特性が変化し、場合によっては層間励起子由来の発光ピークが最大100 meV以上シフトする場合がある。この由来は双方の結晶のスタッキングの状態(積層角や結晶の並進のズレ)によって層間の距離が僅かに変化し、バンド構造が変調することによって引き起こされることが示唆されているが、その実際の観察例はない。そこで、本研究を進めるべく、高い電子顕微鏡技術を持つ英国Oxford大に留学の上、作成した試料の発光特性並びに層間距離を直接測定し双方を結びつけることでこの由来とメカニズムを検証する。
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Research Products
(8 results)