2016 Fiscal Year Annual Research Report
フラストレーションによるリラクサー薄膜の巨大誘電特性
Project/Area Number |
16J03132
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
範 滄宇 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 緩和型強誘電体 / 組成相境界 / 歪み / 超格子薄膜 / 相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
緩和型強誘電体PMN-PTがもつ特異な巨大強誘電特性の発現メカニズムの解明には、『複数のBサイトイオンが形成する秩序-無秩序配列』及び『組成相境界(MPB)における異相の競合』が構造や特性に与える影響について明らかにする必要がある。本年度では、特にPMN-PT薄膜中の相安定性に着目し、以下の研究を行った。 ・PMN-PT薄膜中の弾性場が相安定性に及ぼす影響 これまでの研究で、PMN-PTの薄膜化に伴ってMPBがPT高濃度側へシフトする事を見出してきた。これは、基板から印加される残留応力の影響であると考えられるが、格子ミスマッチや熱応力など多くの要因があるため、解析は困難となる。そこで、本研究では組成変調させたPMN-PT超格子薄膜を作製し、格子ミスマッチによる面内応力を印加した系の微細構造解析を行った。これより、単層膜では正方相が安定な組成(PMN-xPT : x = 0.8-1.0)を含んだ超格子薄膜では、整合界面で印加される面内引張応力によって相の安定性が著しく減少することが明らかとなった。この結果より、弾性場の制御によって薄膜中の相転移挙動を制御できる可能性が示唆される。その応用から、残留応力制御によって電気特性の向上が可能であると期待している。 ・相転移挙動の加熱その場観察 PMN-PT薄膜と基板の相互作用は、熱的現象としての相転移挙動にも大きく影響すると考えられる。本研究ではXRD及び収差補正透過電子顕微鏡を用いた加熱その場観察を行うことで加熱試料中の相転移挙動の直接観察を試みた。これより、PMN-PT薄膜中の90°ドメイン構造は、加熱と共に正方晶の軸比が徐々に減少しながら相転移が起きている事が明らかとなった。また、PMN-PT単層膜におけるMPB近傍の相転移温度は、バルク結晶と比較して100℃近く減少するものの、PTO単層膜ではバルク結晶と同程度の相転移温度をとる事が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
緩和型強誘電体の特性発現メカニズムにおいて重要な要素である異相間のフラストレーションに対して、弾性場を用いた新たな観点から重要な知見が得られた。また、導電性をもつLaドープSrTiO3基板上に、これまで作成した薄膜と同等の高結晶性薄膜の作製に成功しており、最終的な目的である電気特性評価に基づいた特性発現メカニズムの統一的モデルに向けて進展している。以上の理由で区分を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、LaドープSrTiO3基板上にこれまで作成してきた各種薄膜を成膜して電気特性を測定することで、構造解析の結果と比較した『微細構造と電気特性の相関』について研究を進める。これにより得られた結果を、従来のリラクサーモデルと比較することで、緩和型強誘電体の特性発現メカニズムに対して重要な知見を得られることが期待される。また、超格子薄膜の形成によって示唆された弾性場による相転移挙動の制御に対して、単層膜に対しても基板種の変更やバッファー層の導入を検討することによって、相安定性ひいては電気特性の制御が可能では無いかと考えている。
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Research Products
(7 results)