2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J03265
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
姉帯 勇人 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 強誘電性 / 超分子 / 水素結合 / ピレン / ヘリセン / キラリティー / 液晶 / 非平面π電子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、アルキルアミド置換ピレン誘導体の特異な発光特性の原因を調査するため、キラル分岐アルキルアミド基を導入した分子S-1, R-1の会合挙動に関する研究を行い、その論文執筆を行った。また、中心のπ電子骨格が与える強誘電性への影響を調べるため、非平面π電子系化合物のヘリセンに、アルキルアミド基を導入した化合物(2)を合成し、強誘電性の評価を行った。 昨年度の研究より、S-1, R-1は溶媒・濃度依存した発光特性を示し、これはCD, CPL測定から、超分子の螺旋構造に起因していると分かった。また、S-1, R-1はゲル化能を示し、これはナノファイバーの形成に起因していると考えられる。そこで本年度は、この超分子構造に起因したファイバー構造を確認する目的から、S-1のAFM測定を行なった。S-1は基板依存したファイバー構造の形成を示した。これは、基板の親水性が関わっていると考えられ、CD, CPL測定の溶媒依存性の結果と一致した結果であった。これらの結果を基に、キラル分岐アルキルアミド置換ピレン誘導体の発光特性についての論文を執筆し、The Journal of Physical Chemistry Cに掲載された。 また、分子2はDSC測定とPOM観察から、330-420 Kで液晶相を示した。分子2が液晶性を示したため、誘電率の温度-周波数依存を評価したところ、これまでの強誘電体と同様の挙動を示し、強誘電体の可能が示唆された。そこで次に、P-E測定による強誘電性の評価を行った。分子2は液晶相で、強誘電体に特徴的なヒステリシスループを示し、残留分極の値は温度上昇に伴い増加した。これは、分子間水素結合により短距離的に固定されたアミド基の回転が、温度上昇により容易に誘起されたためと考えられる。以上より、アルキルアミド置換ヘリセン誘導体は、液晶性と強誘電性の両者を示す事が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「光を用いた強誘電体から半導体への制御」に関する研究を着実に推進している。特に、本年度は、昨年度に実施したキラルピレン誘導体の光物性に関する研究内容をまとめ、その成果をアメリカ化学会のThe Journal of Physical Chemistry Cに発表した。論文では、超分子構造を反映した発光特性に着目し、π電子化合物の発光特性に関する知見が得られ、大変興味深い研究成果となった。また、本年度に実施した研究内容に関しても大きな進展が見られた。近年注目を集めている、非平面π電子系化合物は、その特異な分子構造から自発分極を有するが、その分子骨格を用いた強誘電体の報告はこれまでになかった。報告者は、非平面π電子化合物であるヘリセンにアルキルアミド基を導入する事で、新規な非平面π電子系有機強誘電体の開発に始めて成功した。この強誘電体物性は、非常に特異であり、興味深い結果成果である。 さらに、上記の研究成果に関して、国内外の学会において積極的に成果発表を行い、日本化学会東北支部大会での優秀ポスター賞、分子科学討論会の優秀講演賞を、さらに国際学会であるISCOM2017においてPoster Awardを受賞した。また、これまでの研究成果を高く評価され、東北大学多元物質科学研究所の籏野奨学基金から多元物質科学研究奨励賞を受賞している。以上の理由から、研究は大きく進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究では、これまでの研究成果を元に、分子の構造や超分子構造が与える強誘電性への影響を調査する。ラセミ体であるヘリセン誘導体の強誘電性発現のメカニズムを考察し、超分子構造が与える強誘電性への影響を明らかする。具体的には、ラセミ体であるヘリセンにアルキルアミド基を導入したものだけではなく、キラル(P体またはM体)のヘリセンにアルキルアミド基を導入した化合物を新規に合成し、これの強誘電性を評価する。また、アミド基とヘリセンの強誘電性に与える影響を調べる目的から、ラセミ体とキラル体のヘリセンにアルキルエステル基を導入した化合物を新規に合成する。これにより、分子構造や超分子構造が与える強誘電性への影響が明らかになると考えられる。超分子構造は発光特性にも大きな影響を与える事が、これまでの研究からも明らかになっている。よって、超分子構造による強誘電性の制御が可能になることで「光を用いた強誘電体から半導体への制御」を可能とする分子の指針が得られると考えられる。この知見を基に、更なる分子設計を行い、測定を行なう。また、最終学年に当たる事から、国際学会および国内学会に積極的に参加して成果発表を行い、並行して論文の執筆を行う。
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Research Products
(13 results)