2016 Fiscal Year Annual Research Report
均質化問題と分数冪時間微分を持つ方程式の粘性解理論
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16J03422
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
難波 時永 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | Caputoの非整数階時間微分 / 粘性解 / 適切性 / 完全非線形偏微分方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,カプトーの意味での非整数階時間微分(以下,カプトーの時間微分)を持つ完全非線形偏微分方程式,特にハミルトン・ヤコビ方程式と退化楕円型作用素を主要部に持つ方程式に対して粘性解の枠組みでの適切性について研究した.空間の非局所性を除けば,同様の方程式に対する(粘性)解はすでに別の研究者によって与えられている.しかし,適切性が議論されていないため,その解の定義の妥当性や適切性は不明瞭のままであった.本年度はそれらを明らかにした.以下はその概要である. 粘性解を定義する基本的なアイデアは,未知関数と試験関数の差を考え,最大値原理を介して未知関数の微分を試験関数に担わせることである.すでに知られているカプトーの(時間)微分に対する最大値原理と空間方向への古典的な最大値原理を適用することである一般化された弱解の概念が得られる.しかし,この解の概念に対しては一意性の証明に回避困難な問題が生じる.解の定義を改めるために時間方向には最大値原理の代わりにカプトーの時間微分自身の部分積分を適用する.新たに未知関数の微分に依らない式が導かれ,別の一般化された弱解の概念が得られる. この解の概念はすでに知られている粘性解のものと一致することがすぐにわかるが,新たに適切であることを示した.基本的な証明の流れは整数階の場合と同様である.すなわち,一意性のために比較定理を示し,存在性はペロンの方法に基づいて示す.これにより連続な一意解が得られる.1階の方程式にしか確かめられていないが,この解は時間について"時間微分の階数"次ヘルダー連続,空間についてリプシッツ連続であることも示した.安定性については,古典的なものの類似の他に,時間微分の階数を連続的に変えた時に解は局所一様の位相で連続的に変化するという主張を得た.なお,以上の結果は線形の方程式にも適用可能である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,カプトーの非整数階時間微分をもつハミルトン・ヤコビ方程式に対する粘性解理論構築を目指していた.実際には,ハミルトン・ヤコビ方程式だけでなく退化楕円型作用素を持つ方程式についても同様に解を定義し適切性,すなわち,連続な一意解の存在とある安定性を確立することができた.応用上重要視されているカプトーの時間微分の一般化に,有限個のカプトー微分の線形結合として表される多項カプトー時間微分がある.得られた全ての結果は定数係数の多項カプトー時間微分に置き換えても成立する.以上のことから,研究は当初の計画以上に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
現状では適切性以外には解の特徴などは何もわかっていない.例えば解の表現公式や長時間挙動,均質化などは整数階の場合には技術が豊かであり結果もよく知られているが,非整数階微分に対する技術がまだ未発達であるために同様の論法が使えない場面が往々にしてあり,いずれも結果は得られていない.解の性質を知ることは今後の大きな課題になってくると思われる. 本研究で得られた解と別の意味の弱解との関連性を探ることも考えたい.異常拡散方程式(線形かつ発散型)は非常に広範な分野で注目されており,数学的にも研究が盛んに行われている.これに対してはすでに超関数の意味での弱解が導入されているため,我々の解との関係性を明らかにする. 得られた解の概念の適用範囲を広げることも重要である.例えば,整数階の場合にはステファン問題のような自由境界値問題においても粘性解理論が確立されている.カプトーの時間微分をもつステファン問題も現実に考えられるという報告があるため,理論の拡張を行なっていきたい.
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