2016 Fiscal Year Annual Research Report
Unified approaches to the energetics of quantum thermodynamics via information theory
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16J03549
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 康介 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 量子熱力学 / 複数物理量の熱機関 / 非i.i.d.スケーリング / 有限サイズ効果 / 量子情報理論 / 情報幾何学 / 高次漸近論 / 強い大偏差原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来量子熱力学では熱浴の有限サイズ効果は殆ど調べられていなかったが、微視的系では浴のサイズの制限も考えるべきである。特に電池等への応用のため、化学反応を用いた熱機関の最適エネルギー効率における熱・粒子浴の有限サイズ効果を量子論的に明らかにすることを計画していたが、本年度の研究では、より一般に、エネルギーと粒子変化のみに限らず、一般の可換とは限らない複数の量子的物理量を用いる一般化熱機関を扱った。さらに、系のサイズの取扱は、漸近解析の性質の本質が、漸近的な示量性であることに着目し、漸近的示量性の仮定を満たす系一般を考察した。このような一般の複数物理量、一般的なスケーリングのもとで、一般化熱機関の最適性能が、浴のサイズに応じてどのように変化するかを漸近論として明らかする不等式をCarnot boundの一般化と精密化として導出した。これにより、熱力学極限でCarnot boundが温度だけで特徴づけられるのと異なり、有限効果を考慮した最適性能には、物理量の非可換性を反映した相関が寄与することが明らかになった。特に、熱浴同士の相関も反映されている。この有限効果の振る舞いについて、幾つかの具体的な系に適用して調べた。その結果、イジングスピン鎖については、最適性能を最大化する結合定数の最適値があることが分かった。理想気体については、個々の粒子の質量が大きいほど最適性能が大きくなることが分かった。このように、熱力学極限とは異なる、一般化熱機関の最適性能の、具体的な系に依存した構造が明らかになった。さらに、この不等式で与えられる最適性能を達成するプロトコルを一般的に構成した。その最適性の評価は、Bregman divergenceの理論に基づく情報幾何学を活用し、中心極限定理を拡張して得られた強い大偏差原理の評価を応用する新しい数学的手法を開拓して解決した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた、化学反応系の量子熱機関を含む、一般の複数物理量を扱えるモデルの量子熱機関について、最適性能の有限サイズ効果を明らかにすることができたため。また、相互作用なしの理想気体から、マルコフ的な相互作用がある場合への拡張も予定していたが、漸近的示量性に基づく一般的スケーリングのモデルで熱浴を扱ったため、これらを包含する結果となったから。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で構成した最適プロトコルは、抽象的な操作であり、現実的な操作との対応が見えにくいので、測定や量子制御との関係に注目しながら、現実的な量子熱力学的操作を扱う理論を展開する。また、具体的なモデルの熱機関での有限サイズ効果を考察し、これまでの一般的結果と比較する。さらに、量子論における時間に着目し、有限時間での量子熱機関の性能の一般的特徴づけに挑戦する。
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