2016 Fiscal Year Annual Research Report
始原的エコンドライトの岩石・鉱物学的研究による初期惑星分化過程の解明
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16J03702
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 輝 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 始原的エコンドライト |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請では,始原的エコンドライトという太陽系始原物質であるコンドライト隕石と溶融・分化を経験したエコンドライト隕石の両方の特徴を持つ隕石グループに対して岩石鉱物学的研究を行なっている.現在,始原的エコンドライトの1グループであるbrachiniteとその関連隕石であるbrachinite-like 隕石についての研究を進めている.前年度まではbrachinite-like隕石の観察・分析のみにとどまっており,それらの隕石がbrachiniteとどのような関係を持つのかについて言及できていなかった.しかし,本年度はbrachiniteサンプルとしてReid 013隕石の薄片試料を自作し, NASAの南極隕石試料Elephant Moraine 99402/99407, Allan Hills 84025, Lewis Cliff 88763隕石の貸与を受けた.これら5個のbrachiniteサンプルを観察・分析することで,これまでのbrachinite-like隕石についての結果をbrachiniteの結果と比較することが可能となった.その結果,brachiniteとbrachinite-like隕石中のカンラン石の結晶方位に二種類の異なる定向配列パターン(カンラン石結晶のb軸が一方向に集中するパターンとc軸が集中するパターン)が存在することを発見した.これらのパターンの違いは形成環境の違いを反映していると考えられる.今後はこの形成環境の違いを明らかにするべく,研究を進めていく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Brachiniteの薄片サンプルに対して,東京大学のFE-EPMAを使った元素マッピングと鉱物組成の定量分析,国立極地研究所のEBSD検出器付きFEG-SEMを使った観察・結晶方位解析を行なった.その結果,brachiniteとbrachinite-like隕石中のカンラン石の結晶方位に二種類の異なる定向配列パターン(カンラン石結晶のb軸が一方向に集中するパターンとc軸が集中するパターン)が存在することを発見した.b軸集中パターンは地球上の集積岩で広く見られる結晶方位定向配列であるが,室内高圧実験による単純せん断によっても形成されることがわかっている.また,c軸集中パターンはureiliteなどの他の隕石種に見つかっており,母天体上でのメルトフローによって形成されたと推定されている.これら2種のカンラン石結晶方位定向配列パターンが見つかったことにより,brachiniteとbrachinite-like隕石の形成環境が単一ではなく,少なくとも2種類以上の形成環境を考える必要があることが明らかとなった.今後は,これらのパターンの違いを生み出す原因が何であるのかを明らかにするべく,研究を進めていく予定である. これらの研究成果は学会発表として,国内学会で1回(鉱物科学会年会)、国際学会で2回(Annual Meeting of the Meteoritical Society, Lunar and Planetary Science Conference)報告した.学術論文として,brachinite-like隕石に関するものを現在修正中であり,近日中に投稿する予定である。また,brachiniteを含めた包括的な考察をするものを現在執筆中である. 以上のことから、おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は,brachinite・brachinite-like隕石の試料数を増やしてさらに隕石グループ全体に対する考察を行なっていけるようにする予定である.それらの薄片サンプルに対して,東京大学のFE-EPMAを使った元素マッピングと鉱物組成の定量分析,国立極地研究所のEBSD検出器付きFEG-SEMを使った観察・結晶方位解析を引き続き行なっていく.Brachiniteとbrachinite-like隕石に共通して観察される微細組織が見つかっているので,その形成過程や起源を明らかにするための観察・分析も行なっていく予定である.岩石鉱物学的情報の他に,隕石の希ガス同位体組成や年代学のデータも考察に組み込むことでさらに具体的な隕石の形成環境や進化史を推定していく予定である.
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