2016 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン共役電子移動を利用した高活性ニッケル(II)水素生成錯体触媒の開発と展開
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16J03771
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小柴 慧太 九州大学, 理学府化学専攻, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 電気化学的水素生成 / 同位体効果 / ニッケル錯体 / 分子性触媒 / プロトン共役電子移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度、申請者は水からの水素生成を促進する高耐久性ニッケル錯体触媒の開発を目指し、水に不溶なニッケル錯体触媒を電極上へ修飾し、不均一系触媒として水溶液中で評価するアプローチで研究を行った。導入した錯体触媒は、[FeFe]-H2aseと同様にプロトン受容性アミン部位を有するNiP4 錯体であり、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と共に電極表面に修飾し、各種電気化学測定を行った。この手法で、反応機構解析に成功した例はないが、重水素化試薬を用いた水素生成速度の同位体効果を検証し、反応律速段階におけるプロトンの関与を追跡することで、反応機構の解明を進めた NiP4/MWCNT修飾電極の酸性水溶液中でのLSVから、開始過電圧100 mVで水素生成に伴う顕著な電流値の上昇を観測した。LSVから得られるTafel勾配は59 mV dec-1であり、触媒の2電子還元が水素生成の反応律速段階であることを明らかにした。このような挙動は、固体触媒では観測されない、分子性触媒特有の現象である。同様の測定を重水(D2O)溶液中で行い、Tafel勾配から算出される交換電流密度J0の変化を観測することで反応速度比KIEの決定を行った。その結果、上記の条件ではLSVの挙動、及びTafel勾配は変化せず、KIE = 0.95±0.01と算出され、プロトンが関与しない2電子還元過程が触媒反応の律速段階であることが見出した。一方、均一系条件下、酸添加アセトニトリル中においても同様に同位体効果実験を行い、触媒回転頻度からKIEを算出したところ、KIE = 2と示された。均一系においては律速段階においてプロトンが関与することで、不均一系条件と均一系条件で触媒反応の律速段階が変化することを明らかにした。これらの結果から、錯体触媒は電極への修飾によって錯体への電子移動速度が低下することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、初年度の研究計画として挙げていた「均一系条件下におけるニッケル錯体触媒の構造-活性相関」を同位体効果によって明らかにすることに成功した。それだけでなく、これら錯体触媒を電極上へ修飾する、不均一系条件における反応機構が変化する現象を新たに観測することに成功した。またこれらニッケル錯体触媒は過電圧が100mVであり、次年度の目標である「極低過電圧のニッケル錯体触媒の開発」の達成へと大きく近づく実験結果も得られている。当初の年度計画を上回るペースで遂行できていると同時に、新規性の極めて高い成果を得られたという観点から、(1)当初の計画以上に進展している、ということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた成果に電極触媒としての耐久性、またPt/C触媒に代表される固体触媒との反応機構比較を行った上で、論文として取りまとめる予定である。 また、「極低過電圧のニッケル錯体触媒の開発」を引き続き遂行する予定であるが、その際にはDFT計算を用いた分子設計を活用する。水素生成過電圧の鍵となる錯体の酸化還元電位を、極めて簡便に行うことができるため、今年度得られたニッケル錯体触媒の骨格を起点に、より電子求引性の高い配位子や、Ni-P4骨格の歪みを調整することによって、最適な分子構造を取得し合成、機能評価を試みる。また、配位子自身が酸化還元能を有するジチオレン骨格にも着目し、同様に水素生成触媒機能評価と反応におけるプロトン共役電子移動反応の寄与を探索していく。
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Research Products
(1 results)