2016 Fiscal Year Annual Research Report
がん関連線維芽細胞に対する放射線照射の効果およびそのがん病態への影響の解析
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16J03822
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
酒井 友里 北海道大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | がん関連線維芽細胞 / 細胞老化 / 老化関連分泌形質 / NADPHオキシダーゼ / 活性酸素種 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はがんの放射線治療後に生じる残存がん細胞の再増殖や、有害事象の発生といった問題を解決するため、腫瘍間質に存在しがん病態に影響を与えることが示唆されている「がん関連線維芽細胞 (CAF)」に着目し、この放射線応答を明らかにすることを目的としている。 はじめに当初の計画である移植腫瘍や液性因子を用いた手法によりCAFの実験的な作製を試みたものの、CAFとしての性質を獲得した線維芽細胞を分離することができなかった。そこで方針を変更し、放射線により誘導される細胞老化とこれに伴う液性因子分泌形質の変化に着目し以降の研究を進めた。 マウス胚線維芽細胞 (MEF)に対して放射線照射を行い細胞老化を評価したところ、老化細胞の割合は有意に上昇した。また、細胞老化に伴って発現が上昇することが報告されている数種類の液性因子についても発現が上昇する傾向にあった。これらの液性因子の発現を誘導する因子のひとつとして活性酸素種 (ROS) が挙げられるため、MEFの細胞内ROSレベルを評価したところ、X線照射により細胞内ROSレベルの上昇が観察された。そこでROS産生酵素であるNADPH oxidase (NOX)ファミリータンパク質の発現を検討した。するとマウスに存在する六種類のアイソフォームのうちNOX4の発現が放射線照射によって有意に上昇することが明らかとなった。また、野生型 (WT)およびNOX4ノックアウト (KO)マウスよりMEFを分離し、放射線照射後のROSレベルを定量したところ、KO MEFではその値が有意に低下した。以上よりX線照射により上昇するMEFのROSレベルにはNOX4が寄与することが示唆された。 今後NOX4の発現およびROSレベルの上昇が液性因子の発現に与える影響について解析を進め、放射線照射により引き起こされる炎症やがんの悪性化への関与を検討する計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画ではCAFを実験的に作製し、以降の実験に用いる予定であった。そこで初めにPuromycin耐性マウス胚線維芽細胞 (MEF)をマウス乳腺がん細胞とともにマウス乳腺組織に移植し、腫瘍を形成させた。成長後にこれを摘出し、puromycinによる選択を行ったが細胞がすべて死滅してしまい、CAFとしての性質を獲得した線維芽細胞を分離することができなかった。上記の移植腫瘍を用いた手法に加え、線維芽細胞をCAF様細胞へと誘導することが報告されているTGF-β1をMEFに処理し、CAFの最も一般的なマーカーであるα-smooth muscle actinの発現を観察したものの、顕著な発現変化は観察されなかった。 以上のようにCAFの作製が難航し計画通りに実験を遂行することが困難になったため、研究方針の変更が必要となった。一般的に放射線照射などの過度のストレスに暴露されると、細胞は「ストレス誘発性早期老化」と呼ばれる状態に陥るとともに、種々の液性因子を分泌するようになる。この状態がCAFに類似することから、腫瘍やその周辺組織に存在する線維芽細胞が放射線照射により老化細胞へと変化し、放射線治療後の炎症やがんの悪性化に関与するのではないかと仮説を立て、これを証明するための実験を行った。その結果、NADPH oxidase (NOX)ファミリータンパク質のうちNOX4の発現が放射線照射により上昇し、細胞のROSレベルに影響を与えることが明らかとなった。これは腫瘍の間質をターゲットとし、その放射線照射の効果を明らかにするという当初の目的を達成するための進展であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、NOX4が放射線照射によるROSレベルの上昇に関与することが明らかとなった。ROSは炎症性サイトカイン等の液性因子の発現に関与し、炎症を誘導することが報告されている。そこで今後はNOX4により産生されたROSがMEFの液性因子分泌形質を変化させることにより炎症に関与するかどうかについて検討を行う。そのために、X線照射を行った野生型およびNOX4ノックアウトMEFの培養上清を用いてマクロファージ等の炎症細胞を培養し、その活性や遊走能について評価する。また、液性因子はがんを悪性化させることが報告されていることから、上記の実験と同様に各細胞の培養上清を用いてがん細胞を培養し、これらの増殖能や転移浸潤能について評価する。
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[Journal Article] Lipophilic tetraphenylphosphonium derivatives enhance radiation-induced cell killing via inhibition of mitochondrial energy metabolism in tumor cells2017
Author(s)
Yasui H, Yamamoto K, Suzuki M, Sakai Y, Bo T, Nagane M, Nishimura E, Yamamori T, Yamasaki T, Yamada K, Inanami O
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Journal Title
Cancer Letters
Volume: 390
Pages: 160-167
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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