2017 Fiscal Year Annual Research Report
ファイバ入射パルス波形の最適化制御による波長間エンタングルメントの大規模任意形成
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16J03900
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
保坂 有杜 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | スクイズド光 / 量子相関 / フォトニック結晶ファイバ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はフォトニック結晶ファイバを用いた高度もつれ量子状態の生成とその測定の精度を向上させる研究を行った。その結果、昨年度よりも高い精度での量子相関の計測を行うことに成功し、固有モード解析により量子状態の特性評価を行うことができた。しかし、実験結果の評価から、光ファイバ中で発生するラマン散乱やそれに伴う複雑な量子状態の変化により、ファイバ入射パルスの最適化制御によって量子状態を完全に制御することは困難であることが分かった。 そのため新たに、2次の非線形結晶を用いたパラメトリック下方変換過程を、入射するフェムト秒ポンプパルスの波形を制御することによって操作する改善案を提唱し、その実験をスタートさせた。2次の非線形結晶を用いた量子状態生成では群速度分散の設計がファイバよりも容易となるため、格段に高い精度での量子状態の制御が可能となる。その結果、最適化制御のような複雑過程から最適解となるパルス波形を導く手法を用いることなく、決定論的に量子状態の時間周波数波動関数を制御することが可能となる。すでに光ファイバを用いた量子状態制御よりも自由度と制御性の高い実験結果を得ることができることを理論的に示している。 今年度は以上の理論的改善案の提唱に加え、原理実証のための実験準備を進めた。非線形結晶からのフォトンペア生成の実験を行い、その非古典性を確認し終えている。また、Ti:sapphireレーザーパルスの第二高調波発生およびその振幅位相波形整形を行った。次年度においては、今年度準備した波形整形パルスを用いて周波数間の量子相関をフォトンカウンティングによって確認し、当初の目的であった波形整形を用いた量子相関制御の実験を完了する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ファイバを用いた複雑な量子相関を持つ超広帯域光の発生と昨年度より高い精度での周波数モード間の相関計測を達成することができた。これにより、詳細な量子相関の解析が可能となり、並行的に生成される複数の光子数スクイズド光を相関から導き出すことができた。しかし、光ファイバによる量子相関制御はファイバ中で発生する様々な過剰ノイズやファイバ出射後のビームの伝搬モードの取り扱いの難しさから、ファイバに入射するフェムト秒パルス波形整形による最適化制御は困難であることも判明した。 そこで、改善案として2次の非線形結晶中のパラメトリック下方変換過程をポンプ光フェムト秒パルスの振幅位相制御によって量子相関を制御する新しい方法を理論的に提唱した。2次の非線形効果を介して周波数間に量子相関を形成することによって、結晶の位相整合のデザインとポンプ光パルスの複素電界振幅から決定論的に周波数間の量子相関をデザインすることができるようになる。これによって当初の目的であった周波数域における量子相関制御を容易に達成できるようになるだけではなく、量子化学計算やボソンサンプリングといった実用的な量子計算機への展開も可能となる。 これまでの研究において、上記の改善案実現のための要素技術は全て開発済みであり、スムーズに実験的実証に移行することができる。また、この新手法を提唱することによって実験における技術的ハードルも格段に下がったため、来年度の成果に期待することができると考えている。本年度はすでに新手法実現のための実験系の構築に取り掛かっており、最終年度となる次年度までに当初の目標であった周波数間量子相関の制御を達成するまでの見通しが立っている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は非線形結晶を用いた周波数域の量子相関のデザインの実験に取り組む。位相整合条件がうまく設計された非線形結晶に波形整形されたフェムト秒パルスを入射することで周波数域での任意の重ね合わせ状態をもつフォトンを生成する。これを多段に用意することで周波数域での量子干渉に自在に制御し、任意の量子相関を得る。 この目的のために、まずは任意の周波数重ね合わせ状態が生成されていることをシグナル光とアイドラ光の周波数相関から確認し、制御性がどの程度あるのかを評価する。得られた評価に基づいて量子干渉を引き起こし、プログラマブルな量子相関形成が可能であることを実験的に実証する。数値解析では20モード程度の周波数モードの制御が可能であることが分かっているため、この規模の量子干渉を目標として実験を進める。 また、上記の実験では扱える量子状態が単一光子状態に限られる。これを連続変数の量子状態に拡張するために、真空スクイズド光の周波数域における任意の重ね合わせ状態生成の実験も並行して行う。真空スクイズド光の生成にはType-II PPKTP結晶を用いる。この結晶に外部共振器によって強度が増強されたポンプ光を入射することで高いスクイジングレベルを持つ複数の真空スクイズド光を並列に生成する。さらに、この真空スクイズド光を周波数域において混合するためにType-II PPLN結晶と高強度の波形整形されたポンプ光を用いて和周波発生を行い、並行生成された真空スクイズド光を任意の重ね合わせ状態へと変化させ、量子干渉を自在に引き起こす。 最後に、研究計画の先の展開として、実証した周波数域における量子状態のプログラマブルな量子相関形成が量子シミュレータやガウシアン状態を用いたボソンサンプリングに適用可能であることを示し、本手法の有用性を明らかにする。
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