2016 Fiscal Year Annual Research Report
環境汚染物質によるバイカルアザラシ内分泌系かく乱の統合的評価
Project/Area Number |
16J03906
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
芳之内 結加 愛媛大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 内分泌かく乱 / バイカルアザラシ / エストロゲン受容体 / アンドロゲン受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、多様な環境汚染物質によるバイカルアザラシ内分泌かく乱の統合的なリスクについて評価することを目的とした。まず初めにアンドロゲン受容体(AR)を介したシグナル伝達系に着目するために、バイカルアザラシAR遺伝子のクローニングを試みた。その結果、ARのオープンリーディングフレーム(ORF)の塩基配列・アミノ酸配列を同定することができた。バイカルアザラシと同じ食肉目のイヌでは94%の相同性を、同じ哺乳綱であるヒトとは90%の相同性を示した。一方、ゼブラフィッシュとは39%と相同性に大きな差がみられた。また、ARの中でも化学物質と結合するためのポケット構造を有するリガンド結合領域の相同性を哺乳類間(アザラシ・イヌ・ヒト・マウス)で比較したところ、エストロゲン受容体(ER)よりも高く保存されている傾向があるのに対し、転写活性化領域の相同性は異なる傾向があった。そのため、リガンド選択性は哺乳類間ではあまり差はなく、AR活性化の誘導能に種差が生じる可能性が示唆された。 次に、環境汚染物質とER内因性リガンド17β-エストラジオール(E2)との複合曝露による ER シグナル伝達かく乱の分子メカニズムについて解明することを目的し、免疫沈降法(IP)によるER相互作用するタンパク質の抽出と、ウェスタンブロッティング法(WB)による、ERの発現とIPの実験の検討を行った。初めに、内因性リガンドが発現していないCOS-1細胞にバイカルアザラシERαを遺伝子導入し、細胞抽出後にWBによりERの発現を確認した。次に、細胞抽出後にERα抗体を用いたIPを行い、ビーズにERαが結合し、抽出が可能であることを確認した。この手法を用いることで、化学物質によるERシグナル伝達経路に関連するタンパク質を同定できることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①当初の予定では、バイカルアザラシ アンドロゲン受容体(AR)をクローニングし、レポーター遺伝子アッセイ系に組み込むことまでを予定としていたが、RACE(Rapid Amplification of cDNA End)法を用いて5'末端と3'末端の配列を得ることが困難であったため、クローニングまでしか終了していない。理由として、RACE法では最初のPCRでスメアなバンドは確認できても、Nested PCRで単一のバンドを得ることが出来なかった。3'末端は、幸いにもバイカルアザラシの次世代シークエンス解析で配列が一部得られていたので3'RACEでさらなる配列を得ることを諦めた。一方、5'末端は、すでに末端の配列が得られている哺乳類(ヒト・マウス・ラット・ブタ)のシークエンス配列で保存性の高い配列でプライマーを設計し、PCRすることで得ることができた。 ②化学物質による複合曝露に関与するタンパク質の同定のための実験検討にも時間がかかった。最初に免疫沈降法で用いたアガロースビーズを用いた試験法では、細胞播種から最終的にウェスタンブロッティングでタンパク質の発現を確認するまでに約一週間が必要であった。その間、COS-1細胞への遺伝子導入効率や、様々なバッファーや抗体の検討を行なったため、さらに時間がかかった。これらの検討をした後、磁気ビーズを用いた免疫沈降法の検討を行なった。磁気ビーズはアガロースビーズよりもサンプルのロスが少なく、インキュベーション時間を短縮することが出来るため、実験の手間と時間を短縮することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
①ER・ARとAhRのクロストークに関しては、まずARのレポーター遺伝子アッセイ系を構築してERと同様に、バイカルアザラシに蓄積している化学物質に加え、ビスフェノール類や水酸化PCBsに関してもスクリーニングを行い、必要に応じ用量ー応答関係も評価する予定である。AhRに関しては、ERやARとクロストークすることが様々な先行研究で報告されているが、クロストークは多様に存在しているため、同時に遺伝子導入することで予想できない結果が引き起こされるかもしれない。しかし、そのメカニズムを解明することは困難であるため、まずは、ERとARがどのように作用するかを着目することにする。また、in vitro試験だけでなく、in silicoドッキングシミュレーションを用いたQSAR解析についても研究を進める予定である。 ②トランスクプトーム解析に関しては、まずは免疫沈降法によってERと相互作用するタンパク質を抽出し、MALDI-TOF-MSを用いてタンパク質を定量することで化学物質によってどのような差がみられるかを解析してから、実際にオミックス解析をするのかどうかは判断したいと考えている。まず、免疫沈降法では、ERアゴニスト(E2)とアンタゴニスト(4ヒドロキシタモキシフェン)でどのような違いが出るかを検討すると予定である。また、実際の生物内の環境に近い、ヒト乳腺癌由来であるMCF-7細胞を用いた試験もタグ付きのバイカルアザラシERを遺伝子導入することで検討する予定である。
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