2016 Fiscal Year Annual Research Report
べん毛モーターのFliLとFliGの構造を基盤としたトルク産生機構解明
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16J03916
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
西野 優紀 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | べん毛モーター / NMR / 構造学的解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌の運動器官の一つにべん毛モーターが挙げられる。べん毛モーターは固定子及び回転子から構成される。固定子は用いる共役イオンから二種類に大別される。海洋性ビブリオ菌はナトリウムイオン駆動型固定子を持ち、その固定子はPomA及びPomBという膜タンパク質から構成されている。また、ビブリオ菌においてはPomBと相互作用してモーター機能を補助すると推測されるFliLという因子が存在する。FliLは菌種によって遺伝子を欠失した変異体の表現型に差異が見られること等から、その機能について未知な点が多い。さらに、構造情報も得られていない。そこで、新規の構造情報の獲得及び機能を推定するための手がかりを得ることを目的としたNMRを用いた解析を行った。 べん毛モーターは、時計回りと反時計回りに回転する。そのエネルギー変換は主に回転子が担うとされ、回転方向及び方向転換の制御やトルク産生等に関与するのは複数の因子の複合体である。回転子の構成因子であるFliGが、トルク産生に直接関与する。FliGはN末端、middle、C末端の三つのドメインに分かれており、C末端ドメインが固定子タンパク質PomAとの静電気的相互作用によりトルク産生すると考えられている。また、FliGは回転方向によって構造が変化するとも考えられている。そのため、C末端ドメインの断片及び運動能に欠陥を与える変異を導入した断片を精製し、NMRを用いた解析によって、野生型と変異を導入した断片との構造情報の比較や動的な構造変化の検出等を目的とした研究を行った。NMRを用いた解析はどちらの研究においても宮ノ入准教授との共同研究として進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FliLに関する研究としては、ペリプラズム領域の断片の精製及びNMRを用いた解析が功を奏し、1H-15N HSQCにおいてシグナルを計測することができた。その結果、バッファー条件等によりシグナルのプロファイルがやや異なることやシグナル強度に差が出ることがわかった。また、大阪大学との共同研究によって結晶化に成功し、構造解析も進展した。当研究室の筆頭著者のデータを加えて、論文化を目指し、出版した。 FliGに関する研究としては、上述の通りのNMRを用いた解析を進めた。実際、C末端ドメインの断片に関して、1H-15N HSQCにおいてシグナルを検出することができた。変異体に関しても上記の通りの解析を行い、野生型と同様にシグナルを検出することができた。その結果から、シグナル感度の向上及び連鎖帰属を目指し、上記の結果等から得られた二次構造予測の情報を元にコンストラクトの改良を進めた。さらに、上述の運動能に影響を与える変異体の内、一つを選択し、そちらに関しても同様のコンストラクトの改良を行った。その改良が功を奏し、大部分の帰属を終えることができ、緩和等の解析を行うこともできた。現在はそれらのデータに加え、白井教授の研究室の土方氏との共同研究によって得られた分子動力学シミュレーションの結果と合わせて、論文化の執筆を進めている。また、その研究とは別に、当研究室で以前行われた、FliGの全長及びその断片の精製及び熱力学を用いた解析(Differential scanning calorimetry)等の結果から、それらの考察及び執筆を担当し、論文としての出版まで終えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
FliLに関する研究においては、ペリプラズム領域の新たなコンストラクトを欠失及びタグの位置の変更という形で数種作成し、精製を進める。これによって、NMRを用いた解析の感度の向上を目指す予定である。また、構造情報を元に変異体作成を行うことで、FliLの機能に関する新たな情報を得ることや構造変化に関する新たな知見を得ることを目指す。FliGのC末端領域に関するNMRを用いた構造解析においては、投稿できるレベルになっているが、論文の改訂を指示される可能性もある。そのため、博士論文の作成に向けて、執筆とデータのとりまとめも行っていく。また、FliGのMiddleドメインからC末端ドメインの断片と運動能に欠陥を与える変異を導入した断片を精製し、NMRを用いた解析によって1H-15N HSQCシグナルの検出を試みた。その結果、精製法等の改良が必要だと判断したため、今後はFliLの実験を中心に進める予定である。それによって、今年度末までにFliLの論文の出版という成功を収められるように努める方針である。
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Research Products
(3 results)