2017 Fiscal Year Annual Research Report
木材腐朽菌の多糖分解酵素で見出された新規金属依存性ドメインの役割の解明
Project/Area Number |
16J03946
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
小嶋 由香 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 新規セルロース結合ドメイン / 褐色腐朽菌 / 溶解性多糖モノオキシゲナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
褐色腐朽菌といわれる糸状菌の一群は、針葉樹材を好んで腐朽してその強度を急激に低下させることから、我が国の木造建築物に被害を与える主要な生物種の1種である。本菌の分解メカニズムを明らかにするために長年研究がなされてきたが、未だ不明な点が多く残されている。不明点の1つは、本菌が木材中のセルロースを完全に分解可能であるにもかかわらず、結晶性セルロースを効率良く分解するために不可欠な酵素およびセルロースに吸着することで酵素の触媒効率を上げるセルロース結合モジュール(CBM1)を欠損していることである。そのため、褐色腐朽菌は錯体介在型フェントン反応によって積極的に水酸化ラジカルを生成し、これによってセルロースを含む植物細胞壁を分解することで酵素の欠損を補っているという説が提唱されている。しかしながら、この説を支持する直接的な証拠は示されておらず、分解メカニズムを明らかにするためには別の角度からの研究が必要であった。そこでセルロースの結晶領域をも低分子化することができる溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)という酸化還元酵素に着目した。LPMOは広く糸状菌に保存されており、いくつかの酵素を欠損している褐色腐朽菌においてもLPMOをコードする遺伝子は保存されていることから、LPMOは褐色腐朽菌の分解メカニズムに重要な役割を担うのではないかと考えた。興味深いことに、褐色腐朽菌Gloeophyllum trabeumが有するLPMOのうちの一つには、C末端に機能未知ドメインが付加していた。もし褐色腐朽菌がCBM1の代わりとなるようなセルロース結合ドメインを有するのであれば、本菌における新たな酵素分解経路が示されることとなり、分解メカニズムの解明に前進する。そこで本年度は、この機能未知ドメインの機能を明らかにすることを目的として研究を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、褐色腐朽菌Gloeophyllum trabeumが有する溶解性多糖類モノオキシゲナーゼのC末端に付加する機能未知ドメイン(GtUD: Unknown Domain)の機能を解明することを目的として研究を実施した。各種多糖類に対するGtUDの吸着能を調査するため、GtUDに赤色蛍光タンパク質(RFP)を融合させたRFP-GtUDを設計し、酵母菌Pichia pastorisを宿主とした異種宿主発現系で組換え酵素として発現させた。比較対象として、セルロース分解性糸状菌Trichoderma reesei由来CBM1(TrCBM1)とRFPを融合したRFP-TrCBM1も組換えタンパク質も生産した。これらの組換え酵素を用いて各種結晶性セルロース(セルロースIα、IβおよびⅢⅠ)に対する吸着特性を調査した結果、RFP-TrCBM1が全ての基質にほぼ同程度吸着したのに対して、RFP-GtUDはセルロースIα、IβにのみRFP-TrCBM1よりも強く吸着し、ⅢⅠに対しては全く吸着しないことが示された。また、水溶性基質(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キシラン、キシログルカン、グルコマンナン、ペクチン)に対する吸着特性を調査した結果、RFP-TrCBM1はメチルセルロース、キシログルカン、グルコマンナンに対して吸着を示したが、RFP-GtUDはいずれの基質に対しても吸着を示さなかった。以上のことから、GtUDは天然に存在する結晶性セルロースであるセルロースⅠに特異的にかつ非常に強く吸着する新規のセルロース結合ドメインであることが明らかとなった。以上のように順調に機能未知ドメインの機能を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、GtUDの吸着メカニズムを解明するため結晶構造解析を実施する予定である。本ドメインは約7kDaと比較的低分子であるため、X線構造解析に適した分子量にするために短いリンカー領域を挟んで赤色蛍光タンパク質(RFP)と融合したX線構造解析用の組換えRFP-GtUDとして生産する。RFPをX線構造解析するための情報は数多く報告されており、RFPは酵母菌を宿主として生産した場合に良好な発現量が得られている。さらに、その後の精製条件も明らかになっていることから、RFPを融合することでGtUDの生産・精製・結晶化の条件検討が容易になると考えている。また、リンカー領域を短くすることで、RFPが結晶化する際にGtUDも結晶化することができると考えている。得られた三次元構造から、基質に結合に関与するアミノ酸残基を推定する。GtUDは天然に存在する結晶性セルロースであるセルロースⅠを良好な基質とすることが明らかになっているため、セルロースⅠとGtUDの結合をシュミレーションすることによって、結合に関与するアミノ酸残基を推測できると考えている。推測された各アミノ酸残基に点変異を導入し、それぞれの変異体の吸着能を調査することで、結合に関与するアミノ酸残基を明らかにすることを目指す。
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Research Products
(4 results)