2016 Fiscal Year Annual Research Report
ギャップ結合を介したシグナル伝達の生理学的意義に関する薬理学的研究
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16J04170
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
宇津 美秋 千葉大学, 大学院薬学研究院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | コネキシン / 薬物感受性 / アポトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
悪性中皮腫細胞株H28より樹立したコネキシン(Cx)43強制発現株では、スニチニブ曝露によるアポトーシスの誘導にアポトーシス促進因子であるBaxとCx43との直接的な相互作用が重要であることを見出している。Cxは主に細胞膜上に発現しており、一方Baxは通常細胞質中に広く分布しているが、活性化により構造変化・ミトコンドリアへの移行を経てミトコンドリア機能の低下を引き起こす。よってスニチニブ曝露により細胞膜上のCx43がBax並びにBaxを活性化する因子との相互作用の場として機能しているのではないかと予想し、まずBaxの活性化因子の探索を行った。文献情報よりCx43とBaxの両方と相互作用する可能性のある分子としてPKC zeta, PKC epsilon, p38, JNKを選び出し、Cx43強制発現株においてスニチニブ曝露時の活性変化を評価したところ、JNKのみ2-4倍程度活性が上昇し、その他の分子の活性変化は認めなかった。このスニチニブ曝露によるJNKの活性化は親株のH28細胞では認めず、Cx43がJNKの活性化に重要であると推察された。そこで免疫蛍光染色により活性型JNK及び活性型Baxの局在を観察したところ、スニチニブ曝露初期に確かに両者が細胞質中で共局在していることが確認された。一方、Cx43をsiRNAによりノックダウンすると活性型JNK及び活性型Baxの発現が著しく低下し共局在も認めなかった。更にJNKがBaxの活性化に寄与することを検証するため、JNK阻害薬を処置後にスニチニブ曝露を行ったところ、活性型Baxの発現量並びにミトコンドリアへの移行の低下を認めた。以上より、Cx43がJNKの活性化に関与し、活性化したJNKがBaxを活性化しミトコンドリア移行を促進することでアポトーシスを引き起こすことが示唆された。本検討結果は現在学会誌へ投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コネキシン(Cx)43、アポトーシス促進因子のBax並びにミトコンドリアの免疫蛍光染色による多重共局在解析は技術的難易度が高いが、大学に他研究室の協力も積極的に得るなどの努力で実験系を確立し、定量的に現象を捉えることに成功した。これにより、抗がん薬のスニチニブ存在下でCx43がBaxを活性化しアポトーシス誘導を促進する機序として、JNKが介在することを新規に見出した。この結果を学術誌に投稿すると共に、第90回日本薬理学会年会において英語の口頭発表を行い、年会優秀発表賞を受賞するに至った。 更に、上記検討内容に加え、新しく中枢神経系における代謝とCx43との関係について研究を開始するため、ラット新生仔の脳よりアストロサイトを分離培養する実験系の確立にも取り組んだ。培養条件の検討を繰り返し、比較的高い純度のアストロサイト培養系を作製することができた。また、分離した細胞から水溶性代謝物を抽出しCE-TOF/MSを用いて代謝物の一斉分析を行ったところ、アミノ酸は感度良く検出することができ、特に神経伝達物質であるグルタミン酸やグリシン、抗酸化物質であるグルタチオン等が他の代謝物に比べて豊富であることを確認した。今後は、低グルコース含有培地での培養や酸化ストレス刺激下でのアストロサイトの代謝変化を捉え、さらに神経細胞と共培養した際に神経細胞の代謝系へ与える影響も観察し、これらの代謝ネットワークにCx43がどのように関与しているか明らかにしたいと考えている。 以上より、当初計画していた以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は現在投稿中の論文が受理されるよう必要に応じて追加実験を行う一方で、受入研究機関を変更し新たな研究を行う。具体的には、これまでの研究を発展させ、がん悪液質状態における中枢のコネキシン(Cx)43の役割について検討を行う予定である。がん悪液質は進行性がん患者の約80%に認められる消耗性代謝疾患でがん死亡の約20%を占める。そのように治療ニーズが高いにも関わらず、病態形成のメカニズムが十分に解明されていないため満足のいく治療法は未だ確立されていない。一方、中枢のCx43が末梢のインスリン分泌制御に関わっている可能性が示唆されており、がん悪液質状態で認められる代謝異常にCx43が関与している可能性がある。 そこで、受入研究室において既に確立しているヒト胃がん細胞株85As2移植がん悪液質モデルを使用し、その脳を採取してCx43の発現及び脳内の代謝物量変化を調べることを計画している。得られた結果より推定される脳内の活動変化を予想し、これまでに確立した初代培養アストロサイトの実験系を活用しメカニズムの検証を行う。最終的に、Cx43の発現や機能を調節する薬物を投与することにより、がん悪液質症状の改善が見込めるか検討する。
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