2016 Fiscal Year Annual Research Report
世俗化時代の信仰に関する人類学的研究:現代テヘランのシーア派ムスリムの事例から
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16J04250
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
谷 憲一 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | イラン / シーア派イスラーム / 儀礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度において報告者は、テヘランにおける敬虔なムスリムと世俗的なムスリムそれぞれの実践および相互に交流する場面の民族誌的な記述を通じ、世俗化とイスラーム復興が同時に進行するイラン社会において人々の信仰や宗教観が形成されていくメカニズムを解明するとともに世俗化論やイスラーム復興に関する議論の再考をすることで信仰というものを問いなおすという課題の下、テヘランにおける現地調査を行った。 ・敬虔なムスリムが参加する宗教行事に関する調査 モハッラム月に各地で行われるホセインの追悼儀礼の参与観察および参加者へのインタビュー調査を行った。また平成28年12月8日~平成28年3月31日までは、テヘラン大学世界研究科の宗教社会学を専門とするアーメリー博士の指導の下で、追加の調査を行った。本調査によって、モハッラムの儀礼には、普段モスクに行かない人々も積極的に参加していることが明らかになった。また、参加の理由の一つとして、ローカルな人間関係の形成・維持といった側面があることが明らかになった。こうした行事は、一方で国家がイスラーム共和国というイデオロギーのため推進されているといえるが、その一方で参加者たちは様々な動機の下で儀礼を遂行している。以上のことから、信仰をめぐっては単に個人化された信念とは別に社会的な側面があり、この側面こそが全体としての敬虔なムスリムの信仰の維持に寄与していることいえる。 ・世俗的な志向を持つ人々のイスラーム観の構築に関する調査 上記の調査と並行しながら、モスクに行かない人々や宗教行事に参加しない人々にもインタビュー調査を行った。比較的高学歴層には、上記のような宗教行事に懐疑的な意見が散見された。彼らが強調するのは、国家が推進する行事に無批判に追従することの危険性であった。こうした意見は信仰が個人化されていることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、テヘランにおけるフィールドワークに基づいた、1)モスクでの敬虔なムスリムの実践に関する調査、2)世俗的な志向を持つムスリムのイスラーム観の構築課程の調査、3)大学等、公共空間における宗教的な人々と世俗的な人々の接触に関する調査、および文献研究を中心とした4)世俗化論とイスラーム復興をめぐる議論の再検討を計画していた。 そのうち現地滞在の期間を予定よりも延ばし、3)、4)に比べ基礎的な情報に関する1)および2)の調査を重点的に行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで集めた1)モスクでの敬虔なムスリムの実践に関する調査、2)世俗的な志向を持つムスリムのイスラーム観の構築課程の調査に基づいた資料を精査し、イスラーム復興・ポスト世俗主義に関する理論的な枠組みの下で3)宗教的な志向性と世俗的な指向性との接点に関する調査を行うとともに、現代イランの事例をもとに4)世俗化論およびイスラーム復興に関する議論を批判的に検討しなおす。またデータの不足を補うため、儀礼が行われる時期に2か月程度の追加調査を行う予定である。
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